国内企業最前線
SDGsを事業飛躍の羅針盤に
地域に根ざしたエネルギー開発に取り組むレノバの活動大規模ソーラー発電所など再生可能エネルギーによる発電事業の開発・運営を手掛ける株式会社レノバ。経営の根幹にSDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、17の目標を精査しつつ、個別の地域課題に根ざした再生可能エネルギーの開発に取り組んでいます。社長室広報担当の窪田糸乃依(しのえ)さんに、この間の取り組みを聞きました。[2018年8月20日公開]
経営トップの志が切り拓いた再生可能エネルギー事業
株式会社レノバの事業概況からお聞かせください
窪田: レノバは太陽光、バイオマス、風力、地熱といった再生可能エネルギーによる発電事業の開発・運営を行っています。運営する発電所数は、現在のところ太陽光によるソーラー発電施設が7か所、木質バイオマスによる発電施設が1か所で、発電出力は計163.7MWです。
7つの大規模ソーラー発電施設は、水郷潮来(茨城県)、富津(千葉県)、菊川石山、菊川堀之内谷(静岡県)、九重(大分県)、那須塩原(栃木県)、大津(熊本県)など全国に及んでいます。
また、軽米西、軽米東、軽米尊坊(岩手県)、那須烏山(栃木県)、四日市(三重県)で新たなメガソーラー発電施設を建設・開発中です。苅田(福岡県)や御前崎(静岡県)などでは国内最大級のバイオマス発電施設を開発中です。これらに加えて、秋田県由利本荘市の沖合の日本海で国内最大級となる洋上風力発電所の計画も進めています。これらが完成すると発電出力は約1.5GWになる予定です。
なお、当社は2018年2月に東京証券取引所マザーズ市場から東京証券取引所市場第一部へ市場変更されたばかりです。
環境ビジネスやリサイクルに関するコンサルティングサービス事業からスタートしたとうかがいました。
窪田: 創業者であり代表取締役社長 CEO の木南(きみなみ)陽介は、2000年5月に環境・エネルギー分野での調査・コンサルティングサービス事業で会社を興しました。
木南の学生時代のエピソードですが、高校生だった18歳のときに、環境と開発に関する国際連合会議(通称リオ会議)が開催され、後の京都議定書における気候変動枠組条約に関する議定書の橋渡しとなりました。CO2の削減が地球を揺るがす課題であることを知り、いつか地球規模の課題解決に関わる仕事に就こうと誓いました。
飛躍の機会を与えてくれた東日本大震災とFITの導入
再生可能エネルギー事業への本格参入には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
窪田: 東日本大震災と福島の原発事故が1つの契機となったのは事実です。この日を境に、わが国のエネルギーミックスのあり方が問われるようになりました。
ただ、よくよく調べると再生可能エネルギー特別措置法(旧FIT法)そのものは、東日本大震災が起きた2011年3月11日の後ではなく、当日の午前中に閣議決定されていました。歴史の転換はすでに震災の前に始まっていたのです。先進国の中で後れを取っていた再生可能エネルギーの普及が、わが国でも大きな潮流になろうとしていました。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(改正FIT法)の制定によってわが国でも電気事業者による再生可能エネルギーの買い取りが進むこととなり、当社の事業もこの分野に大きく舵を切りました。しかし、これまでの道のりをたどれば、順風満帆どころか山あり谷ありの連続でした。
いかに志が高くとも、資金力の乏しい独立系の小さな会社に、再生可能エネルギーの開発はおぼつかないと思われたのです。
大規模ソーラー施設では、開発・運営をめぐって入札が行われるのですが、茨城県潮来市のコンペでは、緊急災害時に併設する「道の駅」に電力を供給できるといった地域一体の発電所構想が評価されて、当社初の水郷潮来ソーラーの受注が決まりました。名も知れていない当社が受注するまでの道のりは険しいものでしたが、地域共生への熱意を受け止めていただいたことで第一歩を踏み出すことができました。
また、熊本の大津ソーラーは、2016年4月の運転開始の直前に熊本地震に見舞われ、一時は延期も考慮されました。開発地に通じる一般道のがれき撤去に協力させていただくなど、地元の方との信頼構築に努め、地域復興と再生のシンボルにしたいという地元の皆さんの強い思いから、どうにか運転開始を迎えられました。
当社が再生可能エネルギー事業への参入を踏まえ、株式会社レノバに商号を変えたのは2013年12月のことです。ちなみにレノバはラテン語で、「ReNewする」という意味が込められています。
地域との連携で秋田にバイオマス発電所を建設
秋田県で県内の未利用材を活用した木質バイオマス発電所の運営を行っていますが、こちらは全国でも目新しい動きですね。
窪田: バイオマス発電は、季節、天候、昼夜を問わず24時間、365日稼働することができるため、ベースロード電源と位置づけられています。
秋田地方は、杉材などの人工林で日本一の植林面積を誇りますが、林業の活性化が重要な課題となっています。山を守るためには、柱材となるA材や合板材となるB材だけでなく、これまで山に放置されてきたC材・D材などの未利用材の活用も欠かせません。
林業者の方に未利用材をバイオマス燃料となるチップ材に加工してもらうことで、そこに新しい事業が生まれます。そうすることで社員を増やしたり後継者も生まれ、地域経済の再生や活性化が図れます。また、新たに植林が進むことで、森林資源の循環も生まれます。
秋田でレノバのパートナーの要となっているのは、ユナイテッドリニューアブルエナジー㈱の平野久貴社長ですが、震災後の仙台港近辺の産業廃棄物を一緒に処理したのがきっかけでパートナーシップを組むことになりました。
平野社長の人脈で、林業や製材業を営む地域の皆さんとの信頼が育まれ、いまでは地域全体で100名を超える新たな雇用が生まれています。
木質バイオマス発電では、熱源となるバイオマス燃料の安定確保がポイントだとされています。
窪田: 秋田では県内全域の未利用材を有効活用するために、県内全域からチップの供給が可能となるネットワークをつくりました。
ただ、タービンを回して安定的に電気をつくるには、熱源となる火力の安定性が欠かせません。そこで燃料の3割ほどはパーム椰子殻(PKS)を東南アジアから輸入することにしました。もちろん、トレーサビリティのしっかりしたパーム椰子殻の確保が大前提です。この材料を輸入することで秋田港の取扱高が増え、港湾の活性化にもつながっています。
発電所の見学料全額を秋田市建設部公園課が管理する千秋公園の老木管理などを行う「さくらファンド」へユナイテッドリニューアブルエナジー㈱を通じて継続的に寄付しています。また、見学者のお土産として、社会福祉法人一羊会がつくる「秋田杉クッキー」を進呈させていただいています。安定的な発注が、雇用の創造につながると大変喜ばれています。
エネルギー変革のリーダーをめざすには、高い理想と目標が欠かせない。
「2030年までに1,000万トンのCO2を削減する」という目標を掲げていますが、経営の中にSDGsをかなり真剣に取り入れているようですね。。
窪田: 企業を測る物差しとしてESG〔環境(Environment)、社会( Social)、企業統治(Governance)〕経営が叫ばれていますが、国連が2030年に向けて提唱するSDGs(持続可能な開発目標)は、そうした物差しをさらに具体化し、17の目標と169のターゲットに落とし込んでいます。
17の中には「気候変動の対策」以外にも企業が取り組むべき課題が明記されています。当社では本業である再生可能エネルギーの開発・運営を通して、CO2の削減を進めるだけではなく、個々の開発地域ごとにSDGsが掲げる目標と課題を掘り起こし、地域の人々と連携しながら、課題解決に取り組んでいこうとしています。
たとえば、三重県四日市で開発をしてきた「四日市ソーラー」では、太陽光発電事業としては三重県初となる環境アセスメントを21か月にわたり実施しています。地域の皆さんと意見交換を繰り返した結果、予定地の2割を生物保護用のビオトープ(生物生息空間)に充てることにしました。
ソーラーの設置面積が2割カットされるのは、事業の効率性からすれば決して喜ばしいことではありませんが、地域との共生や生物の保護など生物多様性を守るために必要な視点です。地元の高校の先生からもご助言いただくなど地域と一体となって事業を進めることができました。
当社は、現在、秋田県由利本荘沖の日本海で大型洋上風力発電所の計画を持っていますが、洋上の広域利用を可能とするには環境アセスメントや法的整備などとともに地域の理解が欠かせません。
洋上風力発電所は、わが国に残された大きな可能性を持った事業ですが、社会としっかり向きあって事業を進めていくには、さまざまな意見に耳を傾けつつ、採算性を確保できるかどうかの見極めが大切です。
SDGsは2030年の地球に私たちがどこまで責任を持つかを知るうえで、とても有益の指標です。地域と連携し、地域の理解を得て、「グリーンかつ自立可能なエネルギー・システムを構築し、枢要な社会課題を解決する」という当社の経営理念に合致した取り組みといえます。
●株式会社レノバ
http://www.renovainc.jp/
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