CSRフラッシユ
“飢えと気候変動”の切っても切れない関係?!
2つの国際団体の活動報告から台風やハリケーン、熱波と寒波……自然災害が各地で猛威を振るっています。このほど世界で活動を続ける団体から2つの報告書が届きました。地球で暮らす私たちが避けて通れない「食糧問題と気候変動」に対する示唆に富む報告です。[2018年10月1日公開]
〔報告-1〕 世界の飢餓人口は8.2億人に増加。
9人に1人が“飢え”で苦しんでいます。
国連世界食糧計画(WFP)や国連食糧農業機関(FAO)によれば、2017年は飢えに苦しむ人々が世界で8億2100万人、うち栄養不足で発育不良の子どもたちが1億5000万人に上るとの発表がこのほど行われました。
この3年、 世界の飢餓人口は増加を続け、 10年前の状況に逆戻りしたとのこと。この後退は、 2030年までに飢餓をゼロにするという国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に暗雲を投げかけています。
南米およびアフリカのほとんどの地域で状況が悪化しているほか、改善傾向にあったアジアでも栄養不足の解消が足踏みをしています。
飢餓と気候変動の相関関係
国連機関の年次報告書によれば、降雨パターンや作物生育期に影響を及ぼす気候変動性や、干ばつや洪水等の極端な気象現象などに加え、紛争や景気後退も飢餓増加の要因になっているとしています。
気候変動は、すでに熱帯および温帯地域の小麦、 米およびトウモロコシなどの主要作物の生産を脅かしており、 気候に対する復元力の構築なしには、 気温の上昇や、より厳しい気象現象が見込まれ、 さらなる状況の悪化が予測されます。
極端な気象現象にさらされる国では、 栄養不足人口の割合と数がともに高い傾向にあり、降雨量や気温の変動に敏感な農業システムに依存している地域では、 極端な気象の影響は一層深刻で、 栄養不足がより拡大しています。
栄養不良の撲滅に遅れ
2017年には5歳未満の約1億5100万人の子どもが栄養不良により低身長とされており、 2012年の1億6,500万人に比べても、 子どもの発育阻害についてはそれほどの改善が見られません。発育阻害の子どもたちの39%がアジアに、 55%がアフリカに住んでいます。
低体重児の割合はアジアでは未だに極めて高く、 子どものほぼ10人に1人が低体重児です。 ラテンアメリカ・カリブ海諸国ではその割合は100人中1人に及んでいます。
また、世界の出産年齢の女性の3人に1人が貧血であり、 女性とその子どもの双方に重大な健康の影響を及ぼしています。 出産年齢の女性の貧血が減少している地域はなく、 アフリカとアジアの割合は北米に比べて3倍近く高くなっています。
アフリカとアジアで母乳のみで育つ子どもの割合は北米の1.5倍で、 北米では6カ月未満の乳児のうちわずか26%が母乳のみで育っています。
飢えの向こうで肥満の増加が
一方、成人の肥満も深刻化しており、 成人の8人に1人以上が肥満です。 この問題は北米で最も顕著であり、 アフリカとアジアでも上昇傾向が見られます。
多くの国で栄養不足と肥満が共存しており、 同じ家庭内でさえ同時に存在します。 栄養のある食料の高値による入手困難、 食料不安による生活のストレス、 食料摂取不足による生理学的適応により、 食料不安の家族での過体重や肥満のリスクが高いことが説明できます。
求められる新たな行動
報告書では、 栄養価の高い食料へのアクセスを確保し、 世代を超えて続く栄養不良の悪循環を断ち切るための介入策の実施とその拡大を訴えています。 乳幼児、 5歳未満児、 学齢期の児童、 青年女子および女性など、食料へのアクセスが最も妨げられやすいグループへの対策に特に注意を払う必要があります。
同時に、 安全で質の高い食料を全ての人に提供できる、 栄養面に配慮した農業や食料システムに向けての持続可能な転換が必要です。
気候変動の適応と緩和、 災害リスク削減を促進する政策を通じて、気候に対するレジリエンス(復元力)を構築するためのより一層の努力が求められています。
【資料提供】国連WFP日本事務所 広報より
〔報告-2〕 パリ協定を意義あるものに。
実効性あるルールづくりが始まっています。
今世紀末までに温室効果ガスを実質ゼロにするという目標を持つパリ協定。この画期的な協定を実効性のあるものとするためのルールづくりが急がれています。12月にポーランドで開催予定のCOP24のルール合意に向けて、このほどタイ・バンコクで準備会合が開かれました。会合に参加した自然保護団体WWFジャパンの小西雅子さんからの報告です。
COP21(2015年)で採択されたパリ協定を、どのように実施していくかの実施指針を議論するバンコク会合が、9月初めにタイ・バンコクで開催されました。2018年末にポーランドで開催予定のCOP24で決定されるパリ協定のルールづくりのための最後の準備会合です。
パリ協定は、今世紀末までに温室効果ガスを実質ゼロにするという目標を持つ画期的な協定ですが、これを実効性のある協定にするには、「緩和から適応」に向けた資金支援・技術移転など60以上ものルールづくりが必要です。
パリ協定に至るまでの先進国と途上国の対立は、この会合でもそこかしこに顔を出し、厳しい交渉が続いています。対立点は大きく分けると以下の2点になります。
衡平性をいかに保つか(二分論⇔全体論の間で)
すべての国を対象とするパリ協定ですが、開発の程度に大きな差がある先進国と途上国に同じルールを当てはめることはできません。先進国と途上国の間でどのように衡平感を持ったルールをつくるかは、パリ協定が成立したときからの課題といえます。
すべての国を同じ制度の下に置きたい先進国に対して、別々のルールにしたいという意向の強い途上国グループが激しい主張を繰り広げています。
論点によっては、途上国でも意見が異なっており、温暖化の悪影響に最も脆弱な島国グループやアフリカ諸国が、中国などの新興途上国に異を唱える場面も生まれています。さながら複雑な連立方程式を解くような交渉が、多岐にわたるルールづくりのそこかしこに顔を出しています。
資金は誰が負担するのか
最大の対立点は、資金をめぐる議論です。パリ協定では、先進国が途上国の緩和や適応に向けて資金・技術支援をすることになっていますが、途上国側はその資金支援をすべての論点に盛り込むことを主張しています。
たとえば、「国別目標」が掲げる削減目標の範囲として、資金や技術支援も含めるべきという“範囲”をめぐって両者が鋭く対立しています。
途上国の側は、先進国がこれまできちんとやってこなかった削減努力の責任転嫁を警戒しており、途上国が削減行動をとる見返りとなる「資金や技術支援」をきちんと引き出したいという意向があります。そのため国別目標の議論では、削減のルールだけではなく、適応のルール、特に先進国からの資金や技術支援も議論の範囲内である、という主張です。
一方、先進国の側は、削減に関するルールづくりに焦点を絞って、そのルールをなるべく世界共通のものとすることで、排出量が増えつつある新興途上国の削減行動を担保したいという意向があります。
また、資金額の予測可能性を高める仕組みを強固にすることを途上国は強く主張しています。一方、先進国側は、資金援助について注意深く合意されたパリ協定の定める範囲を守ることを盾にしています。
これらはパリ協定が合意に至るときからの対立点で、事務官レベルでは解決できず、各国の首脳レベルの交渉と決断が必要となります。
このあと2018年10月中旬までに、COP24において各ルールに合意できるような方向性を示す合同リフレクションノート(これまでの進捗評価や今後の進め方に関する覚書)を作成することを議長団にゆだねることとなりました。
10月下旬には、閣僚級の非公式準備会合(プレCOP)が予定されており、そこで各国が合意に向けたテキスト案を検討できるようにします。
12月のCOP24開催までに、プレCOPを含め、カリフォルニアで開催されるグローバル政府以外の自治体、企業、投資家、市民団体などの非国家アクターたちのイベントや、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)からの1.5度報告書発表など、COP24におけるルールづくりの機運を盛り上げる会合が目白押しです。
日本でもようやくパリ協定に提出する2050年の長期戦略の議論が進んでいますが、二酸化炭素(CO2)に価格を付けるカーボンプライシングなど実効力ある政策の導入が世界に比べて周回遅れであるのは否めません。パリ協定の有効なルールづくりに貢献するとともに、国内対策も本格化させる必要がありそうです。
【資料提供】(公財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
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