識者に聞く

地球と海を占拠するプラスチックゴミ

プラスチックゴミによる環境汚染対策を訴える 東京農工大学の高田秀重教授に聞く

川から海に流れ込んだレジ袋やペットボトルが、潮流や紫外線を受けて5ミリ以下の微細なプラスチックのかけらとなるマイクロプラスチック。このまま放置すれば、「2050年には、海は魚よりプラスチックゴミの方が多くなる」と高田教授は警告する。やがて食物連鎖によって私たち人間にも取り返しのつかない災いをもたらしかねないのだ。[2018年11月30日公開]

東京・荒川で見たプラスチック廃棄物の漂着物(高田教授提供)

東京・荒川で見たプラスチック廃棄物の漂着物(高田教授提供)

カタクチイワシの涙

2015年、私たちが東京湾の埠頭で釣った64尾のカタクチイワシの消化管を調べたところ、その8割の49尾から1ミリ前後の微細な破片が発見されました。調べるとその大部分がプラスチック破片で、10%がマイクロビーズと呼ばれる洗顔料や歯磨き粉に使われる添加物、5%はフリースの原料となるポリエステルの化学繊維片でした。

東京湾のカタクチイワシからも(高田教授提供)

東京湾のカタクチイワシからも(高田教授提供)

プラスチック破片の多くは、ポリエチレン(レジ袋、ラップ、容器など)とポリプロピレン(耐熱容器、ラップなど)に大別されるが、どちらも軽いため水に浮かび、潮力や紫外線で分解して1枚のレジ袋から数千個のマイクロプラスチックができる可能性さえあります。東京湾ではムール貝からもマイクロプラスチックが検出されています。

実は、東京湾でのこの調査以前に、「クジラの異の中から80枚のレジ袋が(タイ)」「鼻にストローが刺さったウミガメが (コスタリカ)」「栄養失調で死亡したとみられる海鳥の体内から大量のマイクロプラスチックが」などのニュースが世界各地から飛び込んでいました。

その後、私たちの仲間が北極海に近いベーリング海でハシボソミズナギドリという海鳥を調べたところ、12羽のすべての消化管から0.1〜0.6gのマイクロプラスチックが検出されています。

ハシボソミズナギドリの消化管から検出されたプラスチック破片(高田教授提供)

ハシボソミズナギドリの消化管から検出されたプラスチック破片(高田教授提供)

平均体重500gの海鳥から0.6gのマイクロプラスチックが発見されたということは、人間に例えると50kgの人の胃袋から60gものマイクロプラスチックが見つかったのに匹敵します。

私たちの住む地球は海でつながっており、マイクロプラスチックによる汚染の広がりはもはや看過できないところまで迫っています。


海はつながっている

日本の周辺海域のマイクロプラスチックの把握は、2014年に環境省が行っています。プランクトンネットを船で引っ張ってサンプリングするのですが、1平方キロメートルにつき、172万個のマイクロプラスチックが浮遊しているという結果を得ました。

これは北太平洋の平均の16倍、世界の海の平均の27倍です。私たちは世界有数のマイクロプラスチックの海に囲まれて暮らしていたのです。

実は、世界の海には、いま5兆個のプラスチックが漂っているといわれています。下の地図の赤い部分がその主な集積地を示しています。

海に漂うマイクロプラスチック片 (高田教授提供)

海に漂うマイクロプラスチック片 (高田教授提供)

世界第2のプラスチック生産・消費国である日本から、プラスチックゴミの再利用という名のもとに押し付けられた中国や東南アジアからのプラスチックゴミも、ブーメランのように日本近海に再び押し寄せています。


桜田外ノ異変

プラスチックの大量消費が始まったのは1960年代です。その影響が出始めたのは1970年代ですが、70年代、80年代はまだ被害も散発的でした。

いつ頃からマイクロプラスチックの影響が大きくなったかを調べるため、私たちは皇居桜田門外のお堀端で土壌を採取しました。それが下のグラフです。2000年代に入ると急に増えているのが分かります。

皇居桜田掘りで行った土壌の年代別個数調査 (高田教授提供)

皇居桜田掘りで行った土壌の年代別個数調査 (高田教授提供)

その後、海外でも同様の調査を行うと、南アフリカ、マレーシア、タイ、ベトナムでもほぼ同様の傾向が見られました。

いま、私たちが最も恐れるのは、マイクロプラスチックと「環境ホルモン」の因果関係です。

ボストンタフツ大学医学部のアナ・ソト博士は、ヒト乳がん細胞の異常増殖のメカニズムを調べたところ、実験に使ったプラスチックプレートからノニルフェノールという環境ホルモンの添加物が見つかり、子宮内膜症や乳がんの増加につながるとしました。

この環境ホルモンは女性ホルモンに似た働きをすることから、「男性が女性化する」「男性の精子数が減少し、子どもができにくくなる」「ガンになる」などの影響が憂慮されています。

ノニルフェノールという環境ホルモンは、私たちの大学のある東京・府中市などで調べたところ、100円均一ショップやスーパーに陳列されている「食品保存袋」「使い捨て手袋」「お弁当容器」「プラスチックコップ」からも発見されています。

南アフリカのダーバン港で堆積物を採取する(高田教授提供)

南アフリカのダーバン港で堆積物を採取する(高田教授提供)


未来を取り戻せ

いまのところ、プラスチックに含まれる化学物質が有害であると、しっかり解明されているわけではありません。しかし、室内実験ではプラスチックに吸着した化学物質により、それを摂取したメダカやゴカイなどの生物の肝機能の障害が観測されています。

この数年、マイクロプラスチックによる化学物質のリスクについて、ようやく予防原則の立場から、世界各地で新たな対策が始まっています。

2014年には、アメリカのサンフランシスコでペットボトルの飲料水の販売が禁止されました。2015年12月には、アメリカでマイクロビーズの配合禁止が決まりました。日本では大手企業で自主的な動きが始まっていますが、まだまだ不完全です。2014年8月からはカリフォルニア州でレジ袋が禁止されました。その年の11月には欧州連合でもレジ袋の削減が義務付けられ、2025年までに1人の使用数は年間40枚までとされています。

2016年にはイギリスでもレジ袋に課税が始まり、その後60か国以上で同様の規制が始まっています。同年9月には、フランスでもプラスチック製の使い捨て容器や食器を禁止する法律が制定されています。

その後、飲食プラスチック容器に加えて、ペットボトルでの飲料水の販売禁止やストローの規制も各地で始まっています。わが国でもようやくレジ袋の有料化の動きが始まろうとしています。

  海から回収されたプラスチックゴミ (高田教授提供)


海から回収されたプラスチックゴミ (高田教授提供)


日本で暮らす私たちがやるべきこと

いま、国連が2030年までに実現を目指す持続可能な開発目標(SDGs)に注目が集まっています。その17の目標のうち12番目には「つくる責任、つかう責任」が、13番目には「気象変動に具体的な対策を」が、そして14番目には「海の豊かさを守ろう」があります。

私たちが目指すべきは、石油由来の化学物質への依存をやめることですが、当面、いわゆる3R、リデュース(減らす)、リユース(繰り返し使う)、リサイクル(資源として再活用する)を徹底することです。その3つの中で、私自身はまずリデュースに力を注がなければならないと思っています。

日本ではこれまでプラスチックゴミの71%が焼却処分されてきました。しかし、熱回収は世界ではリサクルではないとされています。燃やすと当然ながら二酸化炭素が発生しますし、ダイオキシンの生成も行われます。今後はパリ協定の違反とみなされるのです。

日常の暮らしの中では、エコバッグなどの買い物袋を持つ、ペットボトルの飲料水は避け、マイボトルで飲み物を持参する、スーパーでの食品の購入では過剰包装の製品を避けるなどから、初めてはいかがでしょうか。石油ベースのプラスチックではなく、木質や穀物を原料とするプラスチックも生まれています。そうしたものが早く普及してほしいと願っています。

私自身は、駅弁を選ぶときも、プラスチックの容器でないものを選んでいます。外で食事をしなければならないときは、少し早めに家を出て、普通の食器で食事を出すお店を選びます。

私たちは、プラスチックによる環境汚染の被害者であると同時に、加害者でもあるという自覚を持つ必要がありそうです。

※この記事は11月10日に行われた生活クラブ生協における高田教授の講演の模様をご本人の承諾を得て要約したものです。

高田教授8

高田秀重(たかだ・ひでしげ)
1959年、東京都生まれ。東京農工大学農学部環境資源科学科教授。理学博士。1986年に東京農工大学農学部環境保護学科助手に就任。97年、同助教授。2007年より現職。日本水環境学会学術賞、日本環境化学会学術賞、日本海洋学会岡田賞など受賞多数。世界各地の海岸で拾ったマイクロプラスチックのモニタリングを行う市民科学的活動「インターナショナル・ペレットウォッチ」を主宰。

高田教授9B

すぐにはじめてください。さよならプラスチック生活
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