CSRフラッシュ
アメリカン・エキスプレス・アカデミーの10周年記念プログラム
社会起業家・若手リーダー100名が集い、変革に向けた誓いを新たにアメリカン・エキスプレスが2008年より世界9か国で展開している「アメリカン・エキスプレス・アカデミー」。非営利セクターや社会起業家として働きながら社会変革を目指す次世代リーダー向け研修プログラムです。わが国では2009年からスタートし、これまでに700名以上が参加しました。先ごろ、同アカデミーの10周年を記念した集いが東京都内で若手リーダー100名を集めて開催されました。[2019年5月7日更新]
いまでは41都道府県に広がっているアカデミー卒業生のネットワーク
「アメリカン・エキスプレス・アカデミー*1(以下、アカデミーと略す)」は、アメリカン・エキスプレス(本社・米国ニューヨーク市)と同財団が2008年より世界 9 か国で展開している社会貢献プロジェクトです。
日本においてはNPO等の公益非営利組織や社会起業家を対象に、明日のリーダー 育成をテーマとした「リーダーシップアカデミー」とサービスのイノベーションによる組織改革をテーマとした「サービスアカデミー」の2つが、前者は公益社団法人フィランソロピー協会、後者は特定非営利活動法人エティックがそれぞれ中心となって2009年から毎年開催してきました。
2つのアカデミーの卒業生はすでに700名を超え、そのネットワークは41都道府県に広がっています。
3月19日に行われた「10 周年記念プログラム」は、これまで同アカデミーに参加した非営利セクターの次世代リーダー100名を集めて開催されたもの。当日の多彩な催しの中から、アメリカン・エキスプレス財団のティム・マックリモンさんの記念講演と、卒業生たちが運営に関わる8つ団体からの報告をお伝えします。
*1 「アメリカン・エキスプレス・アカデミー」は、アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミーとアメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミーの総称で、いずれも3日間の合宿と半年後のフォローアップ・セッションで構成されています。
記念講演から
明日のリーダーに求められる4つの資質
ティム・マックリモンさん
(アメリカン・エキスプレス財団代表兼アメリカン・エキスプレスCSR担当上級副社長)
私たちの社会貢献活動には、世界各地における歴史的遺産の保全修復や次世代リーダーの育成があります。この10数年で「アメリカン・エキスプレス・アカデミー (以下アカデミーと略す)」で研修プログラムの支援を受けた若者は5,000人にのぼります。
私たちの調査によれば、アカデミーで研修を受けた人々は、いまでも94%が社会的なセクターで働いています。また、70%以上の人々が組織の中で昇進し、さらに責任の重い仕事に就いています。
アメリカン・エキスプレスで私が社会貢献活動のプログラム設計を任されたとき、私はそれまでの自分の体験から、非営利組織のリーダーの育成が必要であると考えました。
競争の激しい社会では、エネルギッシュで力のあるリーダーが求められています。一方、社会セクターの多くは常にリーダーと資金の不足に悩んでいます。そうした組織では、リーダーシップとマネジメントのスキルが強く求められています。
リーダーシップとマネジメントの役割の違いは
ハーバードビジネススクルーのエイブラハム・ザレズニック教授は、マネジャーはプロセスを容認すると述べています。安定性を求め、すぐに問題を解決しようとするのがマネジャーであり、マネジメントの役割だというのです。一方、リーダーは混沌や体制の欠如も受け入れ、課題を解決に導くためなら時間をかけてもよいと考えています。
アメリカン・エキスプレスの前会長であるケン・シュノールトは、リーダーの役割について、「現状をしっかり把握することだ」と述べ、そのうえで組織やスタッフに「希望を与えること」が大切だと述べています。非営利組織のリーダーには、リーダーシップとともにビジョン、そして強い管理スキルが必要となります。
リーダーに求められる4つの指針
リーダーとなるには、チャレンジすべき4つの指針が必要です。
1つめは「目的」が明確でなければなりません。それはビジョンであり、使命と呼ぶこともできます。理想であり、大義であり、天職と言い換えることができるかもしれません。
成功するリーダーは、正しいと思える方向にみんなを導き、みんなを鼓舞して同じ方向にうながすことができる人です。
リーダーには情熱が必要だという人もいます。情熱は自分自身を鼓舞するものであるのに対し、目的はほかの人に対するものだという人もいます。ある人は、情熱は職場でハッピーでいるために必要なものだと言いますが、誰もが自分の仕事を天職として情熱を燃やしているわけではありません。
キャリアを選択するうえで、情熱は危険でもあるという人もいます。情熱は燃えやすい代わりに冷めやすいからです。目的はより永続的なものなのです。
アメリカのある有名な作家であるラルフ・ワルド・エマーソンは、「人生の目的は幸せになることではない、人の役に立ち、敬われ、思いやりのある人になることだ。そしてあなたが充実した日々を生きてきた証をつくることだ」と言っています
2つめは、リーダーには「計画」が必要です。これは戦略であり、ロードマップであり、ゴールとも言えます。
リーダーとして成功するには、向かうべき目的地だけでなく、どのようにして到達するかの手段もなければなりません。目的地に到達するには、目的地に一歩一歩踏み出す力が必要となります。
熟慮した計画があれば、より大きな成功に導くことができます。きちんと計画が立てられれば、その進捗も分かり、効果的な意思決定ができ、組織の変化に合わせて柔軟な組織運営ができ、組織を1つにまとめることができます。
3つめはリーダーには「力」が備わっていなければなりません。それは資金力、アイデアなどのリソースから生まれます。組織にはエンジンが必要です。エンジンには燃料が必要となります。また、これらのリソースをまとめる力が必要です。
力は時代とともに変化します。これからの社会変革には、“新しい力”を手に入れることも必要です。古い力と新しい力の違いは何でしょう。古い力は通貨、つまりお金です。それを得た人は用心深くそれを守ろうとします。閉鎖的で近寄りがたい力といえます。
新しい力は、流れのようです。多くの人によってつくられ、開放的で参加型でみんなを主導します。これは貯め込むことが目的ではなく、導くことが目的です。フェースブック、インスタグラム、LINE、アメーバのようなものも新しい力といえます。
グループの力を自由にすることも大切です。チームのメンバーが自分の意見を語る権利を持ち、組織の意思決定にも意見を述べる機会が必要です。また、異なる意見を持つ人にも発言する権利を与える必要があります。異なる意見がグループに受け入れられることで、グループ全体の変革に活かされます。
4つめはリーダーには「忍耐力」が必要です。忍耐はすべての「徳の根源」と言われています。ただ、これは学んで育てていくことができます。変革を達成するには長い道のりが必要となり、リーダーは時間こそ自分の味方だと受け入れる必要があります。卵は孵化するから鶏が手に入るのであって、卵を割っても鶏が手に入るわけではありません。
忍耐力が付くことで、リーダーが自分でコントロールできないものを手放し、コントロールできるものに集中することができます。人にやらなければいけないと言わずに、やるように説得する方法や、答えを与えずに人が答えを見出せるように手助けすることを学ぶことがリーダーシップの大きな要素です。
正しいことを行うには「目的、計画、力、忍耐力」が必要なのです。
社会を変えるうねりを。明日に向けた8つのアクション
NPO法人底上げ(宮城県気仙沼市)
理事長 矢部 寛明さん
“自分のやりたいこと”“地元のためにできること”を考え、行動できる高校生を育てたい
気仙沼市には、高校はあるが大学がありません。高校生の6割は進学や就職で地元を離れるため、地元に残るのは2割という状況です。最近、地元のある高校でアンケートを取ったところ、復興に関わりたいという生徒が69%もいました。
被災地の復興は人づくりに掛かっています。いかにして若い人材を育てていくか、輩出していくかが地域活性化のカギとなります。
NPO法人底上げでは、高校生に特化したプログラムを開発し、地元高校や企業と連携・協働し、高校生たちが当事者意識をもって地域の課題に立ち向かえるよう、放課後の学習見守りや学習支援に始まり、気仙沼高校生マイプロジェクトアワード報告会を開催するまでになりました。
地域で取り組むコミュニティーづくりと健康づくり
一般社団法人りぷらす(宮城県石巻市)
代表理事 橋本 大吾さん
理学療法士の資格を持ち、震災後の石巻市に移住して、「子どもから高齢者まで病気や障がいの有無にかかわらず地域で健康的に生活し続けることができる社会を創造する」を理念に活動してきました。
震災後の石巻市は、介護の必要な高齢者が増えています。その数は全国平均の約1.5倍。「りぷらす」は、「介護状態の改善」「住民主体の活動」「介護うつの予防」の3つを柱に、健康のための「地域のコミュニティーづくり」「健康づくり」を目指し、「おたがいカラダづくり(おたから)サポーター」の仕組みをつくりました。
地域ごとにサポーターを育て、これまでに仮設住宅や復興住宅などに住む70歳から80歳の4,000人以上にのぼる高齢者に体操教室を実施してきました。
私たちの体操教室に通った高齢者の中には、自分で歩行できる高齢者も増え、「介護は卒業できる」という思いを強くしています。
農業を活用し、障がいのある人がごきげんに暮らせる地域を目指す
NPO法人つくばアグリチャレンジ(茨城県つくば市)
代表理事 伊藤 文弥さん
大学在学中のインターンシップで農業が抱える課題や障がい者雇用の問題を知りました。農業法人で研修を受け、ほうれん草農家などで農業の専門知識を学び、同時に障がい者自立支援組織にも勤務し、障がい者の福祉についても学びました。その後、地域に密着した取り組みで農業と福祉の連携を模索してきました。
現在の「つくばアグリチャレンジ」は、「農業を通じて障がいのある人がごきげんに暮らせる地域を目指し」、野菜づくり、鶏の飼育、農産物の加工などを行っています。
インターネットなどを通じた農産物の販売は400世帯に及び、活動の輪は着実に広がっています。また、レストランの運営も行い、こちらも一般消費者との双方向の関係性を構築しつつあります。(ごきげんファーム)
ニート・ひきこもりの若者の就労支援
MNH株式会社(東京都立川市)取締役社長 小澤 尚弘さん
NPO法人育て上げネット(東京都調布市)若者支援事業部HR担当部長 井村 良英さん
「育て上げネット」は、ニートや引きこもりの若者を対象に職業訓練や就労支援を行って、社会復帰につなげています。MNH株式会社は、地域の商社として多摩地区の特産品の企画開発や福祉作業所の受注ネットワークを手掛けています。
二人はアメリカン・エキスプレス・リーダーズアカデミーの卒業生で、ニートや引きこもりの若者が、自立できるよう商品の開発から仕入れ販売までを体験できるプロジェクトを企画し、商品化を実現しています。現在、MNH株式会社は育て上げネットから紹介を受けた若者の雇用にも取り組み、正社員として採用も行っています。
地域住民と地域材を活かしたものづくり、空間づくりを
KUMIKI PROJECT株式会社(神奈川県その他) 代表取締役 桑原 憂貴さん
東日本大震災を機に奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市で起業。「ともにつくること」が人と場の可能性を広げ、よりよい未来をつくる力になるとの考えから、DIT(Do It Together)をコンセプトに、お店、オフィス、公共空間などをともにつくる空間づくりのワークショップを展開。
これまで全国13都道府県で100回以上、400人を超える参加者が体験しました。DITは、「ともにつくるを楽しもう」をコンセプトに①国産材を活用した家具内装キットの活用、②インストラクターによる丁寧なサポート、③関係をつくり育てる機会を大切に、しています。
衰退する温泉観光地の再生事業
NPO法人atamista
株式会社machimori(静岡県熱海市)
代表取締役 市来 広一郎さん
熱海生まれの熱海育ち。日本有数の温泉観光地であった熱海はこの20年ほどの間に衰退し、町の3分の1が空き店舗になっていました。観光客もホテルから街に出るお客様が少なくなり、街はどんどん衰退しました。
私は東京でビジネスコンサルタントとして働いた後、2007年に熱海に戻り、NPO法人atamistaを設立、「補助金に頼らない街づくり」を目指して株式会社machimoriを立ち上げ、昨年熱海の銀座通りにカフェをオープンしました。
私たちの仲間は、「100年後も豊かに暮らしができるまち」を目指し、観光客を増やすだけでなく、自分たちや子どもの世代が仕事場暮らす場所として、街を豊かに使いこなせる街にしたいと考えて行動しています。
この数年で、空き店舗のリノベーションを進め、魅力ある熱海を復活させようとしています。
住民自治と若者のチャレンジ支援
NPO法人おっちラボ(島根県雲南市)
代表理事 小俣 健三郎さん
NPO法人おっちラボが拠点を置く島根県雲南市では、子ども・若者・大人などすべての世代でチャレンジが生まれ、つながり、波及していく「チャレンジの連鎖」を目指しています。
大人たちは、全国に先駆けて小規模多機能自治(小中学校の学区単位で福祉や地域づくりの機能をもった自治の仕組み)を取り入れ、各地域の住民が自ら廃校を活用し、買い物支援をするなど、人口減・少子高齢化に対応する仕組みをつくっています。
若者たちは、幸雲南塾を活用するなどして、訪問看護ステーションを立ち上げ、外国人市民のサポート体制をつくるなど、地域課題解決に向けたプロジェクトを展開しています。
また、これらのチャレンジが持続するための仕組みとして、協働を支えるコミュニティ財団の設立も検討されています。
雲南市の名誉市民でもある佐藤忠吉さんは、「地域は沈静化すべきである。活性化は競争を生むが、沈静化は共生をもたらす」と名言を述べています。
高齢者と離島の高校生の下宿マッチング
NPO法人一万人井戸端会議(沖縄県那覇市)
代表理事 南 信乃介さん
沖縄には39の有人島がありますが、うち35の島には高校がありません。高校がない離島の生徒にも高校教育をと、子どもたちと下宿のマッチングをスタートしました。離島の子どもたちと那覇市内の高齢者を進つなぐため、GESHUKUプロジェクトを立ち上げ、孤独な独居老人の家に若者が安価に住める方法を考えました。
このアイデアは、アメリカン・エキスプレス・リーダーシップ・アカデミーのグループワークから生まれたもの。現在は支援の対象であった高齢者を地域課題解決のプレーヤーに転換する新しい試みとなっています。
なお、この日の記念イベントでは、地域コミュニティーの崩壊、少子高齢化の進行、地方における過疎化の進行、格差の拡大など日本社会が抱える課題に向き合うため、上の報告後、100名の参加者が8つの分科会に分かれて、互いの問題意識を出し合う時間を持ちました。
主催団体
●公益社団法人日本フィランソロピー協会 東京都千代田区/会長:浅野史郎、理事長:高橋陽子)
●<a href="https://www.etic.or.jp/
“>特定非営利活動法人エティック(東京都渋谷区/代表理事 宮城治男)
●アメリカン・エキスプレス・インターナショナル(社会貢献サイト)
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