国内企業最前線

ガンダムで、社会課題に挑む

バンダイナムコグループが進めるサステナブルプロジェクト

ガンダム人気を背景に、ガンダムを世界で通用する IP(キャラクターなどの知的財産)へと拡大し、SP(社会的アイコン)へと成長させる「ガンダムプロジェクト」。このほど2回目となるガンダムカンファレンスを開催し、「ガンダム×サステナブル」をテーマに、杏林大学名誉教授の古賀良彦さんとガンダム事業統括者である藤原孝史さんが対談を行い、ガンダムを通じた社会課題に挑みました。(2021年9月28日公開)

ガンダムカンファレンスでプレゼンテーションするガンダム事業統括者の藤原孝史さん
(写真提供©創通・サンライズ)

ガンダムのバワーで持続可能な社会の実現へ

バンダイナムコグループが進める横断プロジェクト「ガンダムプロジェクト」が、2 回目となるガンダムカンファレン スを開催しました。冒頭、グループのガンダム事業統括者であるチーフガンダムオフィサー(CGO)藤原孝史さんが登壇し、ガンダムを通じて社会問題を考えるサステナブルプロジェクト「GUNDAM UNIVERSAL CENTURY DEVELOPMENT ACTION (GUDA)」の進捗について語るとともに、「ガンプラリサイクルプロジェクト」や 「ガンダムオープンイノベーション」に続く第 3 弾の企画として、ガンダムを教育分野で活用する「ガンダムエデュケーショナルプログラム」について発表しました。

ガンダムを使ったGUDAの展開を語る藤原CGO
(写真提供©創通・サンライズ)

また、今後の「ガンダムプロジェクト」においては、企業・個人を含む外部パートナーを新たに『G-PARTNER』と位置づけ、横浜市に続く実物大ガンダムの新立像計画や 2022 年の新作アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の展開についても触れました。

本誌では、当日行われた杏林大学名誉教授の古賀良彦さんとCGO藤原孝史さんのトークショーの模様を通じて、ガンダム を通じてより良い未来の実現を目指そうとする、ガンダムの各種プロジェクトの取り組みをレポートします。

〔トークセッション〕

古賀良彦さん(左)と藤原孝史さん(右)
(写真提供©創通・サンライズ)

――ここからはゲストに杏林大学名誉教授で脳科学研究の第一人者でもある古賀良彦さんをお招きし、バンダイナムコグループのガンダム事業統括者である藤原孝史さんと「ガンダム×サステナブル」について語ってもらいます。ところで、古賀先生とガンダムの出会いからお聞きしてもよろしいですか。

古賀: 私は鉄腕アトムや鉄人28号の世代です。ガンダムについてはこのイベントのご案内を受けるまでしっかり理解できていませんでした。少し勉強してきましたので、一夜漬けのガンダムファンといったところですね(笑い)。ただ、ガンダムについて調べると、これまでのロボットとは全く違います。ガンダムは時空を超えて活動する存在ですが、サステナビリティや創造性など、今日的な課題を背負った社会的な存在だということに気づかされました。

――バンダイナムコグループは、ガンダムの力を社会課題の解決に活かそうということで、サステナブルプロジェクト「GUNDAM UNIVERSAL CENTURY DEVELOPMENT ACTION」、通称「GUDA」の取り組みをスタートさせています。

古賀: 素晴らしい取り組みです。ガンダムの出自を探ると、地球の環境変化や人口爆発という背景があり、宇宙にスペースコロニーをつくろうという壮大な物語に発展します。そこでは有限の資源を大切にする、あるいは資源を再利用して循環させる、という人類が直面する課題ともつながっています。つまり未来を見据えた話なのですが、いま私たちが抱える課題に立ち返るという意味も込められています。創造性を大きく膨らまさないといけない大切なテーマです。実は創造性というのは、人間にだけ許された能力です。動物の中で頭が良いとされる猿は、100年前の猿といまの猿を比べてもほとんど変わりません。ところが人間は環境の変化の中でどんどん進化しています。社会的な存在である人間は、創造性を磨き、発展させる力があるのです。

ガンダムについての熱い想いを語る古賀良彦先生
(写真提供©創通・サンライズ)

「ガンダムリサイクル作戦」のゆくえ

――「ガンダム×サステナブル」の活動の1つとして、すでに「ガンプラリサイクルプロジェクト」が進行しています。藤原さん、こちらの進捗はいかがですか。

藤原:バンダイナムコグループの全国約190店舗のアミューズメントの施設などで、今年の春先からガンダムのプラモデルをつくる際に出るランナー(プラモデルの枠の部分)の回収ボックスを設置し、ランナーを回収する取り組みを始めています。今年は約10トン程度を集める予定です。これをケミカルリサイクルによって、新たなプラモデルとして生まれ変わらせるのが「ガンプラリサイクルプロジェクト」です。「ガンダムリサイクル作戦」では、10月20日のリサイクルの日から約1カ月間、リサイクル材を使用したプラモデル「エコプラ」の体験キットを無料配布し、リサイクルについて学ぶ機会を提供するほか、11月20、21日には東京・新宿住友ビル三角広場でイベントを開催します。「ガンダムリサイクル作戦」の成果をガンダムファンのみなさんと視覚的に再確認する場にしたいと思います。

古賀:参加するみなさんは単なるガンダムファンではなく、ガンダムパートナーを自覚するきっかけにもなりそうですね。一人ひとりがリサイクルを前向きにやっていくんだという意識を心の中に刻み込む効果とともに、貴重な達成感を体感することでリサイクルの社会的な意義についても理解が広がるのではないでしょうか。

藤原:11月20、21日は1つのゴールに過ぎません。これを機会にファンのみなさんの大きな賛同と共感を広げていきます。         

オープンイノベーションで「宇宙世紀」を捉えなおす

――社会課題と未来技術を結びつける「ガンダムオープンイノベーション」の取り組みも始まっています。どのような進捗具合でしょう。

藤原:機動戦士ガンダム』の作中に登場する架空の年号「宇宙世紀」を新たに捉えなおし、「ガンダム」の世界同様に私たちが向き合っていくべき課題である人口問題、環境問題、宇宙進出などの未来社会につながるサステナブルなテーマ/領域で、革新的なアイデアや技術などを幅広く募集しています。すでに多くの反響があり、最終の応募締め切りを10月15日に延ばしています。

古賀:夢のあるオープンイノベーションになりそうですが、「宇宙世紀」というイメージだけでは壮大過ぎて時間軸も空間軸もぼやけたものになりがちです。ガンダムをそこに据えると時間軸も空間軸もより具体的なものになってきます。どんなアイデアが出てきそうですか。

藤原:エントリーの1次、2次の集まりを見ると、面白い提案が集まっています。一方でこんなこともやっていいのかといった質問もたくさん寄せられています。予想を上回る関心の高さから、アイデアをさらに膨らませていただこうということで、締め切りを1カ月延長しました。

古賀:企業、個人の枠を超えて参加できるのが良いですね。未来につながる新しい価値を自由に創造し、育てるという試みも素晴らしい……。こうした取り組みには、必ずゴールが設定されますが、今後も続けていくことが大切です。

藤原:宇宙世紀という言葉に集約されるように、ガンダムの世界観はこれまでなかったものです。いただいている提案の中には、宇宙という舞台を使ったものが多いのですが、エネルギー、機械、ニュータイプ、都市などの領域に対象を広げてほしいと願っています。個人的に面白いと思うのは、ガンダム好きな人同士が企業などの枠を飛び越えてつながり、プロジェクトとして応募してくるケースも見られることです。難しい審査になりそうですが、今後の展開が楽しみです。

ガンダムを“教育の場”で活かそう

――「GUDA」の第 3 弾として「ガンダム×教育」というテーマが登場してきました。「ガンダムエデュケーショナルプログラム」の取り組みについてもご紹介ください。

藤原: 1つ目の取り組みとして、「ガンダムファクトリー横浜エデュケーショナルサポート」を実施します。山下ふ頭のGUNDAM FACTORY YOKOHAMAにつくられた18メートルの“動くガンダム”を教材にして、制作に携わってきた研究者や技術者、スタッフから、ものづくりの楽しさや将来のキャリア、プログラミングなどについて考えるきっかけづくりを行う体験型プログラムです。横浜市教育委員会事務局と連携し、この秋より横浜市内の小学校、中学校の受講希望校を募集します。

横浜・山下ふ頭GUNDAM FACTORY YOKOHAMAに立つ“動くガンダム”の実物大像
(写真提供©創通・サンライズ)

古賀:“動くガンダム”はメディアにもひんぱんに取り上げられているので、私も知っています。それにしても18メートルのガンダムには圧倒されますね。

藤原:テレビなどの画面で見るガンダムと、実物大のガンダムでは迫力は大違いです。聴覚、視覚をフル動員して見ると、あらためてガンダムの凄さが実感できます。

古賀:子どもたちが“動くガンダム”との出会いをとおして新しいスキルを磨くきっかけになってくれるとよいですね。実物大のガンダムがどうしたら動くのかを考えるだけで、創造が膨らみます。これは子どもたちの脳の発達にとても有益です。

ガンダムの物語では、アムロ・レイという主人公の少年も登場し、ガンダムとさまざまな体験を共にします。人馬一体という言葉がありますが、ガンダムと少年が一体となって行動し、挫折や成功体験を通じて成長する姿がとても印象的です。「ガンダムファクトリー横浜エデュケーショナルサポート」は、ガンダムがいう「宇宙世紀」にふさわしいニュータイプの人間像を育てるきっかけになるかもしれません。

藤原: 古賀先生、にわかファンとは思えぬ貴重なコメントありがとうございます(笑い)。私たちはガンダムの実際の作品の中でも、学びや成長の視点を大切にしています。 

(写真提供©創通・サンライズ)

――2つ目の取り組みとして、「ガンプラアカデミア」を実施しますが、こちらの構想はどのようなものですか。

藤原:「ガンプラアカデミア」とは、ガンダムのプラモデルづくりの楽しさをとおして、みんなで地球環境について考える無償の授業パッケージです。2021 年 9 月より、横浜市で開催し、その実績を踏まえて全国の小学校での展開も考えています。「プラモデルができるまで」の映像を見て、プラモデルの設計から商品化に必要な技術、工夫、アイデアづくりなどが大切であり、そうした仕事のキャリアへの気づきを学んでもらいます。

古賀:学校や子どもたちもコロナの影響を受け、子どもたちもストレスを感じています。実はストレスをためないようにするにはリクレーションが有効だとされています。リクレーションという言葉は、本来はリ・クリエーションであり、もう一度自分をつくりなおす役割を意味します。プラモデルづくりに夢中になることで、コロナのストレスからも解放されます。実際、子どもたちはガンダムのプラモデルづくりに夢中になるはずです。そのとき脳が一生懸命に働き、我を忘れるほど没頭することで脳が活性化します。ガンプラづくりは、情緒と理性の両面から子どもたちの成長を促してくれます。

藤原:6月に栃木県日光市の鬼怒川小学校で、86人の小学生を体育館に集めて、ガンプラづくりに挑戦してもらいました。ここで見られた光景ですが、上級生が下級生に自発的にプラモデルづくりの手ほどきをしたり、早く完成させた子が遅い子に教えたりという光景が見られました。プラモデルづくりの時間を共有するという体験をとおして、子どもたちの間にも自発的なコミュニケーションが生まれ、新しい気づきにつながりました。

古賀:人は脳を使う動物です。脳はモノをクリエートするだけでなく、人と人が理解を深めるためにさまざまな働きをします。こうした活動で前頭葉がさらに育ちます。脳の活動には楽しんでやることがとても有益です。楽しみながら創造することで、へこんだ脳が膨らんでいきます。脳もサステナブルな働きをするのです。

藤原:古賀先生のお話を聞くと、「ガンダム×教育」のプログラムでも、私たちの創造を超えた新しい広がりが期待できそうですね。バンダイナムコグループのガンダムカンファレンスはまだ2回目ですが、来春にはオープンイノベーションの結果も発表します。

古賀:にわかガンダムファンの私にも、ガンダムへの想いがサステナブルな社会の実現につながることが分かり、ワクワクしてきました。

藤原:今後ともご指導をよろしくお願いします。

【ゲストプロフィール】

古賀 良彦(こが・よしひこ)
杏林大学名誉教授。医学博士。 慶應義塾大学医学部卒。杏林大学医学部精神神経科学教室主任教授 を経て現職。 専門分野は精神障害の精神生理学的研究ならびに香りや食品が脳機能に与える効果の脳機能画像および脳波分析による研究。ぬり絵や 折り紙、ゲームなどの脳機能活性化についても造詣が深い。著書は、パンデミックブルーから心と体と暮らしを守る 50 の方法 (亜紀書房)、睡眠と脳の科学 (祥伝社新書)、いきいき脳のつくり方 臨床医が明かす“しなやかな脳”の科学 (技術評論社)など多数。

『GUNDAM UNIVERSAL CENTURY DEVELOPMENT ACTION(GUDA)』とは
バンダイナムコグループでは、『機動戦士ガンダム』の製品やサービスなどグループ横断によるさまざまな事業を展開すると同時に、サステナブルを軸にした活動「GUNDAM UNIVERSAL CENTURY DEVELOPMENT ACTION(GUDA)」を推進しています。「来るべき“現実の宇宙世紀”に向けて―」というテーマを掲げ、『機動戦士ガンダム』の 架空の時代「宇宙世紀」が抱える地球における人口問題や 地球環境問題を現代社会における問題と考えることで、未来の子どもたちのためにさまざまなアクションを実行しています。
GUDA ホームページ https://www.bandainamco.co.jp/guda/


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