識者に聞く

環境保全団体WWFジャパン中間報告──②脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!(後半)

株式会社システム技術研究所所長 槌屋治紀さんに聞く

環境保全団体WWFジャパンが、このほど「2050年に2008年比でエネルギー需要を約半分に」する『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオの中間報告〈省エネルギー〉』を発表した。省エネルギーによる資源浪費の少ない社会こそ、100%再生可能エネルギーに近づく早道だというのだ。研究を委託されたシステム技術研究所所長槌屋治紀さんの2回目の報告を聞こう。

「脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!」前半はコチラ↓               
http://csr-magazine.com/2011/09/02/analysts-wwf/
 

業務部門の省エネの可能性

次はモータの効率を高めるという課題です。通常のモータは部分負荷率が100%であれば、効率が100%近い優れた電気器具となります。しかし、負荷が50%になると効率は半分に低下します。多くの電力が熱となって放散するわけです。このときモータの回転数を制御して必要な電力のみを供給すれば電力消費量を小さくできます。それがインバータ(モータの回転速度を自由・連続的に、しかも効率良く変えることができる装置)です。 

インバータの導入には、導入費用が掛かりますから何年で投資回収できるかが問題です。企業における通常の投資回収期間は3年程度だといわれています。5年とか7年だと企業はなかなか投資しません。

日立製作所はインバータ制御のモータとインバータをセットにして工場に貸し出しています。初期投資がいらないようにして、省エネ分のお金を払ってくれればよいHDRIVEというシステムをビジネス化したのですが、実際にはなかなかうまくいっていないようです。しかし、2050年に向けてこのような技術がさらに本格化してくるであろうと思われます。

次は運輸部門です。まず乗用車を共有するカーシェアリングです。自動車を持たないと自動車に乗る機会は80%くらい減少するという報告があります。持っているとなんにでも使いますが、持っていないと本当に必要のないときしか使いません。

エコドライブは、ゆっくり加速したり蛇行運転をしない、余計な荷物を積まないといったことを実践するものです。エコドライブを行うと乗用車であれば15%の省エネになります。貨物自動車でも6%くらい省エネになります。運輸業の方で率先してやるところが出ていますが、エコドライブをすると安全運転になります。すると保険料が安くなります。事故が半減したと損保協会の報告に出ています。

自動車の技術ではFRP(繊維強化プラスチック)を使った軽量化だとか、プラグインハイブリット、電気自動車、燃料電池自動車などが本格的に普及します。2050年には70%くらいまでエネルギー効率が高まります。3分の1くらいのエネルギーでいまと同じことができます。それから貨物輸送を鉄道や海運にシフトさせるモーダルシフトを行えば、貨物自動車の需要の15%をセーブします。

航空機の軽量化も加速します。金属に代わってFRPを使った軽量化で30%効率が向上します。すでにボーイング787は20%の効率化を達成したといわれています。先ほどの旅客の10%がTV会議に移行するのと併せて、省エネのシナリオの計算が出来上がってきます。

未来のエネルギー計算法

どういう計算をしたかというと、基準年のエネルギー需要に将来の活動指数を掛け、それに効率の度合いを掛けて、実際に必要なエネルギー需要を出します。これが基本の計算方法です。

活動指数はどのようにして計算したかというと、GDPが成長していた時代は主にGDPが使われました。それが減りそうだとなると、活動指数はちょっと違うものを考えないといけません。私は人口、世帯数、GDP、主要資源生産量、材料資源指数などを持ってきました。活動指数のうち、GDPだけが2050年で1.6倍と大きくなりますが、情報やサービス産業に関係する金属機械産業とか、業務部門とかはGDPに比例するが、その他のものは2008年を1とした場合、2050年ではほとんどが現状を下回っています。それらを活動指数としたわけです。 

たとえば家庭部門の冷房・暖房・給湯・厨房には活動指数として世帯数を当てました。家庭用の動力は新しい電気器具や情報端末を買ったりするのでGDPを活動指数としました。 

産業部門は主要4産業の生産量を活動指数としました。食品や繊維は人口に比例すると見ました。金属機械はGDPに比例します。運輸部門は旅客輸送が人口に比例し、貨物自動車が材料資源に比例するものとしました。航空貨物はGDPに比例するものとしました。業務部門は冷房・暖房・動力がGDP比例にしました。情報サービス化が広がるのが理由です。

これらをベースに省エネルギーシナリオをまとめると、産業部門、家庭部門とも出てきました。多いのはBAUで、少ないのがWWFジャパンのシナリオです。2050年には産業部門でも家庭部門でもエネルギー需要は確実に減ります。業務部門と運輸部門についても同様にエネルギー消費は確実に小さくなります。

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