識者に聞く

再生可能エネルギー普及のカギを握るスマートグリッド国際標準化の動き

米国におけるスマートグリッドへの関心

日本との大きな違いは電力網の老朽化によって規模の大きい停電が発生したり、それに伴う経済損失が生まれていることです。一方、電力の自由化によって送電網へのアクセスと小売の全面自由化が進むオープンな電力網であるともいえます。

アメリカでは、2005年のエネルギー政策法によって電力系統設備の老朽化への対応と再生可能エネルギーの導入が始まっています。2007年にはエネルギー自給安全保障法によってスマートグリッドの標準化に向けた取り組みがスタートしました。2009年には米国復興再投資法を通じて34億ドルがスマートグリッド関連に投入されることになりました。スマートグリッドの導入によって自動車産業やICT産業が強化され、新たな雇用創出が期待されています。

アメリカでは送電網の増強による電力網の信頼性向上に加え、再生可能エネルギーの導入促進と産業の強化がポイントです。

EUにおけるスマートグリッドへの関心

各国・各事業者間を縦横に結んだ電力網が特徴です。各産業はEU域内を単一の市場とすることを目指しており、電力においても全面自由化を進めています。

代表的な政策には、省エネルギー、小売自由化促進、不払い防止などがあります。

EUの特定の国では盗電が深刻です。2006年にEUエネルギー効率化指令が発せられ、2009年の第三次EU電力自由化指令が出され、スマートメーターの普及促進を目指そうとしています。2020年までに80%の普及を目標としています。盗電のさかんな地域での普及を先行させようとしています。

温室効果ガスの削減については、2009年に「トリプル20」といわれる方向性が出されました。1990年比で、省エネルギーを20%進め、再生可能エネルギーの利用を20%に高め、温暖化ガスを20%削減するというものです。

スマートグリッドの目標に再生可能エネルギーの大量導入への対応があります。ロシアをかなり意識しているEUでは、安全保障上もしっかりとしたエネルギー政策を持つ必要があります。巨大資本による電力安定供給を目指した自由化の促進が課題となっています。

新興国におけるスマートグリッドへの関心

新興国には3つの期待があります。1つは経済成長に伴う急激なエネルギー需要への対応です。中国、インド、ブラジルなどが対象ですが、これから拡充する電力網はスマートグリッドでやっていこうという動きがあります。

2つめは低炭素型の新しい都市開発のショーケースをつくろうという動きです。中国、シンガポール、ポルトガルなどがあげられています。中国政府とシンガポール政府による共同プロジェクトとして中国天津のエコシティの開発が行われようとしています。ポルトガルではベンチャー企業Living Plan ITによるスマートグリッドを使った知財のライセンス化の動きが注目されています。

3つめは不払い防止にスマートグリッドを活用する動きです。インド、ブラジル、メキシコなどで始まっています。実はアメリカもかなりの不払いがあります。GE(ゼネラレ・エレクトリック)のスマートメーターには電力を切るスイッチが付いています。不払いが分かると電気が落ちる仕組みです。

スマートグリッドに関する国際標準化の取り組み

この図はスマートグリッドの国際標準化に向けた3つの主要プレーヤー〔米国電気電子学会(IEEE)、国際電気標準会議(IEC)、国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T)〕と米国商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)の関係を示したものです。

2010年1月に国立標準技術研究所(NIST)が「スマートグリッドの相互運用性に関する規格のフレームワークおよびロードマップ(第1版)」を取りまとめました。この中にスマートグリッドの「概念モデル」があります。スマートグリッドとはこういうものだということが書かれています。

国際標準化の組織であるIECやITU-Tが、NISTの概念モデルを引用したり、採用したりしています。一言でいえばアメリカが標準化というものを非常にうまくリードしているといえます。

IEEEは160カ国から40万人が参加する研究者の組織です。これまでに1,300以上の国際標準化規格を定義し、スマートグリッド関連では、100以上の国際標準規格に取り組んでいます。

ITU-Tは国際電気通信連合の電気通信標準化部門ですから、こちらも大事な組織です。2010年2月にFG Smartと呼ばれるスマートグリッド関連の標準規格の検討を始めています。

IEEEはボランティアが基本で多数決です。ITU-Tは1国1票で、全会一致で決まります。メーカーが標準化の規格を急ぎたいという場合、どちらを選ぶと思われますか。一般的には多数決で決まるIEEEの方が早いといわれています。もう1つのIECは国際電気標準会議ですが、こちらも2008年11月にスマートグリッド関連の標準化規格に取り組み、その後IECのスマートグリッド標準化に向けたロードマップを発表しています。

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