識者に聞く

再生可能エネルギー普及のカギを握るスマートグリッド国際標準化の動き

原発事故後、新エネルギーの開発や運用効率化の観点からスマートグリッドへの期待が高まっている。IEEE(アイ・トリプル・イー:アメリカ電気電子学会)メンバーで、IEEE P2030(スマートグリッドにおける相互運用性に関するガイドライン)作業部会メンバーの井上恒一氏に新しい動きについて聞いた。

慶應義塾大学先導研究センター 共同研究員 井上 恒一氏 (IEEE P2030作業部会メンバー)

IEEEと スマートグリッド

スマートグリッドは、再生可能エネルギーの利用促進に欠かせないものということで注目を集めています。ところが海外の最新情報を知る機会はなかなかありません。私自身はIEEEにスマートグリッドの提案をしている研究者の一人ですが、その取り組みの過程の中でIEEEと信頼関係が生まれました。

ちなみにIEEEという組織は、世界最大の技術専門家の組織であり、その一部門であるIEEE-SA(IEEEスタンダーズ・アソシエーション)は、電力・エネルギーや情報技術、通信から交通、医学・医療、さらにはナノ技術といった新しい分野やサイバーセキュリティなどの広汎な業界における業界標準規格を主導的に策定しています。 

スマートグリッドとは

スマートグリッドは、Smart(賢い)Grid(電力網)の意味そのものです。送配電網への情報通信技術の導入による次世代エネルギーインフラといえます。どのように行われるかというと、1つは大量の分散電源の導入によるエネルギーの流れの双方向化であり、もう1つは供給側と需要側を結ぶ情報網の双方向化といえます。エネルギーを分散・自律的な双方向の管理を行うことで、電力システムにおける需要と供給の一致が可能となります。

これによって電力網の信頼性の向上とコストの削減が図れます。つまり電力会社は、電力需要のピークに合わせた過剰な余剰電力をもつ必要がなくなるのです。また、検針が自動化できるのでコスト削減につながります。つい最近、わが国でも再生可能エネルギー法案が成立しました。再生可能エネルギーの導入を進めるときに、いまの電力網で対応できない課題をスマートグリッドが解決していくことになります。

日本におけるスマートグリッドへの関心

電力の自由化が進むアメリカでは、日本の電力会社と比べると規模の小さい電力会社が少なくありません。規模の大きい日本の電力会社は、潤沢な設備投資資金によって設備の更新を頻繁に行っています。停電時間を比較すると日本は常に世界でトップレベルの短さです。

日本の電力会社では、温室効果ガスの削減に関心が向かっています。これを促進する意味から太陽光発電を促進する固定価格買取制度が2009年に成立しました。2011年には、脱原発依存の流れの中で再生可能エネルギー法案が通過しました。これで新エネルギーの買い取りが進むはずです。注目されるのが電力自由化の検討です。2005年から50kW以上の需要家に対する特定規模事業者の参入が認められるようになりました。

日本を完全自由化の方向に向かわせるとしたら、それはスマートグリッドの導入と密接不可分です。日本が目指すスマートグリッドは、再生可能エネルギーの大量導入への対応であり、もう1つは省エネルギーへの高い関心に示されています。ただ、スマートグリッドの導入が進めば、“我慢の省エネ”ではなく“快適な省エネ”が可能になるはずです。

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