識者に聞く

東日本大震災における救援と復興への取り組みPart2[前半]:「企業とNGOの協働」と「進化する日本企業の対応」

拓殖大学国際学部 長坂寿久教授に聞く―物資提供から特定NGOへの資金提供と社員ボランテイア・システムの構築、そして復興(雇用)支援へ

<<社員ボランティアの事例>>

アサヒグループは、4月に被災地に派遣する社員ボランティアを募集した。この呼び掛けにグループ各社から200名を超す応募があったという。これら社員は、主に現地の災害ボランティアセンターでの電話受付や割り振りなどの業務を担った。アサヒビールは既設のボランティア休暇制度とは別に、希望する社員を「業務」として派遣する「企業ボランティア」制度を導入した。この制度では被災地での活動が出張などと同じ扱いとなるため、労災も適用される。常時10人の社員が被災地でがれきの撤去作業などに携わっており、6月末までに延べ200人が参加したという。アサヒビールのように社員ボランティアを出張扱いとしている企業は少なく、ボランティア休暇制度を導入し、出張扱いではない形で資金的支援(バスのチャーター費の負担等)を行う企業が多い。

 

KDDIでは、ボランティア休暇制度(最大10日間)を4月末から導入し、労使協働で社員ボランティア派遣に取り組んだ。ボランティアは社員の自主的な活動として行うことを原則としたが、会社側は情報提供や資金的支援を行った。情報提供としては、ボランティア情報のポータルサイトを立ち上げ、ここにアクセスすれば現地の状況やボランティアへの参加方法、さらに一部補助を受ける方法が明記されている。資金的支援としては、交通費の一部補助(1万円)、備品(長靴など)経費5000円、計1万5000円を提供している。また労働組合は一人1万円を拠出している。この補助を受けるには、ボランティア終了後に活動報告を提出してもらい清算する形をとっている。

同社は、5月はじめに23名を石巻に派遣し、現地受け入れ体制をとっているNGOのピースボートと協働、現地ではピースボートの管理の下で泥出しなどのボランティアを行った。その後も宮古市などへ社員のボランティアツアーを実施し派遣している。労使で1人2万円の補助を行い、個人負担は実質的にないようにしている。交通手段や現地の災害ボランティアセンターとの調整などはすべてツアー会社に委託している。さらに同社は、5月から社員食堂(4カ所)で茨城県産の農産物を、給食会社と打ち合わせて優先仕入れを行い提供している。

富士ゼロックスは、NGOの「Civic Force(シビックフォース)」(代表理事:大西健 )と連携して社員ボランティアを派遣した。同社が震災対応として導入した「ボランティア休暇制度」は、毎月5日間、1年間で60日間で、月10日間(実質2週間)の休暇の取得も可能としている。同社はすでに93年からボランティア休暇制度を導入しており、ボランティア活動に積極的に参加している社員を表彰するなど、利用を促すためのさまざまな取り組みを行ってきた。

化学品メーカーJSRは、Civic Force と協働して、気仙沼大島において4泊5日の日程で約60人ずつ2グループが交代でがれきの撤去に取り組んだ。同社はすでに有給休暇を認めるボランティア休暇制度を導入していたが、今回はボランティアに参加しやすいよう、交通費と宿泊費を会社で負担し、グループ会社を含む全国から参加希望者を募集した。

人材派遣大手パソナグループは、4月1日、社会貢献策の一環としてボランティア休職制度を新設した。有給扱いではないが、国内での活動は最長3カ月、国外なら同2年の休職を認める。制度利用を促すため、移動や宿泊までセットにした「復興支援バスツアー」を企画した。

上記以外にも、富士重工業は、震災の約1カ月後に同制度を新設、ボランティア活動中のけがや病気には通常、労災は適用されないが、同社は独自の災害補償制度を適用して社員をバックアップする措置をとった。ハウス食品は、従来のボランティア休暇制度に加え、ボランティアに参加した社員に交通費・宿泊費として3万円を補助する「ボランティア活動費用補助制度」を新たに導入した。

花王はボランティア休暇制度を年3日から7日に増やした。三菱商事も交通費や宿泊費などの経費は会社負担。4月末から仙台市宮城野区を拠点に支援活動を実施し、現地に常駐社員を置き、来年3月末まで常時10人が活動する予定。トヨタ自動車、ブリジストン、ニコン、スカイラーク等々実に多くの企業が社員ボランティアの促進・支援制度を導入した。

但し、こうしたボランティア休暇制度や資金的支援制度をつくっても社員がボランティアに行くとは限らず、応募がきわめて少ない企業もあった。同僚への仕事のしわ寄せを気にしてしまったりするからで、やはりトップの姿勢や社内の雰囲気づくりも重要である。

<新人研修の場として>
 新人研修として被災地へボランティア派遣をした企業もある。SMBC日興証券は新入社員約360人を3グループに分け、7月の平日に各4泊5日の日程で宮城県に派遣した。休暇扱いではなく、業務上の出張扱いである。東京海上日動火災保険も7月以降、社員が「ボランティア休暇制度」を使って被災地へボランティアに行きやすいようにすると共に、5月には新入社員をボランティアに派遣した(岩手県上閉伊郡大槌町)。

富士ゼロックスでは新人研修の一環としてCivic Forceの拠点の一つである気仙沼・大島に新入社員221名を送り込んだ。目的は大島に依然として散乱するがれきの撤去のボランティアである。4泊5日の日程で、地元の方々から被災体験を聞くなどの座学を行ったほか、環境省の「海(快)水浴場百選」に選ばれた小田の浜と田中浜に流れ着いたがれきの撤去などを行った。
(Part 2-2に続く)

長坂寿久(ながさか としひさ)
拓殖大学国際学部教授(国際関係論)。現日本貿易振興機構(ジェトロ)にてシドニー、ニューヨーク、アムステルダム駐在を経て1999年より現職。『蘭日賞』(2009年)受賞。主要著書として『NGO発、「市民社会力」-新しい世界モデルへ』(明石書店、2007)、『NGO・NPOと「企業協働力――CSR経営論の本質』(明石書店,2011)、等多数。

Part 2[後半] 「企業とNGOの協働」と 「気仙沼・大島モデル」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/10/31/analysts-part2-kesennuma2/

Part 1 「自治体とNGOの協働」と「石巻モデル」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/05/16/analysts-ishinomakimodel-part1

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