識者に聞く

東日本大震災における救援と復興への取り組みPart2[前半]:「企業とNGOの協働」と「進化する日本企業の対応」

拓殖大学国際学部 長坂寿久教授に聞く―物資提供から特定NGOへの資金提供と社員ボランテイア・システムの構築、そして復興(雇用)支援へ

企業とNGOの協働のあり方について、『NGO・NPOと「企業協働力」―CSR経営論の本質』(明石書店)をこのほど出版した長坂寿久氏に、前回のPART1では、東日本大震災における「NGOと自治体の協働」について宮城県の石巻災害復興支援協議会の「石巻モデル」を中心にお話を伺った。PART2では、「企業とNGOの協働」による救援・復興への取り組みについて、震災から半年の動き、企業の具体的な支援活動事例、企業・NGO・自治体のユニークな協働「気仙沼大島モデル」などを2回に渡って報告いただく。

Part 1 「企業と自治体の協働」と「石巻モデル」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/05/16/analysts-ishinomakimodel-part1

Part 2[後半] 「企業とNGOの協働」と 「気仙沼・大島モデル」はコチラ↓
http://csr-magazine.com/2011/10/31/analysts-part2-kesennuma2/

1.日本赤十字社への義援金寄付

拓殖大学 長坂寿久氏

日本企業の災害への対応の仕方をみると、まずは日本赤十字社へ「義援金」の寄付を行っている。もちろん赤十字社だけでなく、中央共同募金会やNHKなどの名前の知られた募金団体へも寄付が行われているが、ともあれ、日本企業のトップにはまず赤十字社への義援金の寄付による対応が共通認識としてあるといえよう。

監査法人トーマツの調査では、「上場企業上位100社の内、84%(84社)が寄付を行っており、ほとんどの企業が寄付をまず行うことで対応をしている(CSR報告書等HPでの報告ベース)」と報告している(注)その寄付先として赤十字社が最もポピュラーなようである。

注:責任監査法人トーマツ「東日本大震災の企業のCSR活動について調査結果を公表」(2011年9月9日)
http://www.tohmatsu.com/assets/Dcom-Japan/Local%20Assets/Documents/Press/Release/jp_p_press20110909_090911.pdf

今回の災害では、日本赤十字社への寄付額(義援金)は、約2842億円(9月1日現在)、中央共同募金会は365億円(8月31日現在)であった。日本赤十字社が受けた義援金額は、15年前の阪神淡路大震災の約1000億円から、今回はその3倍近い。もちろんこれらには企業のみならず、個人からの寄付が多く含まれている。

義援金は、被災者に直接現金の形で渡される。配分方式は、学識経験者、被災都道県、日本赤十字社、中央共同募金会をはじめとする義援金受付団体を構成メンバーとする「義援金配分割合決定委員会」を設置し、それぞれの被災自治体(都道県)別に配分割合を決定する。今回この配分委員会は4月13日に設立されたが、対象となる被災県が多かったことや被害が甚大であったこともあり、配分決定に手間取り、メディアに批判された。

その後決定された現在の配分方式は、「住宅全壊・全焼・流失、死亡、行方不明者は35万円」、「住宅半焼、半壊は18万円」、「原発避難指示・屋内退避指示圏域の世帯は35万円」を基準として、対象世帯・対象者数を乗じた額を各被災県に配分するという決定をしている。現在、すでに申請に基づきかなりの額が県に対して配分済みとなっているようで、県から各市町村の被災者へ順次配付されているはずである。

「義援金」は被災者に直接支払われるため、被災地域が限定されている場合は、各世帯へ支払われる金額は数100万円と大きくなり、それによって家を新築できるなど、救援・復興支援に大きな効果と役割を果たし得る。しかし、今回のように被災地域が広範囲で、しかも複数の県に及ぶ場合には、自治体間の調整や世帯当たりの配付額が少額となり、募金額は膨大でもその効果は限定されたものになることもある。

もちろん赤十字社を通じて被災者に義援金を送ることは企業にとって主要な支援策の一つとなりうる。しかし、企業が赤十字社経由の寄付のみを支援策と考えている、あるいは赤十字社経由の寄付で十分と考えているならば、現在のCSR経営時代において、いささか問題であるといえよう。今の時代には、企業自らが自社の理念や専門性に基づき、特定のNGOを選択し、NGOと協働して支援に取り組む積極的な対応が求められているからである。

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