華やかな都市生活に埋もれた健康格差の是正に目を向けよう

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)所長 アレックス・ロス氏に聞く

革新的資金メカニズムの創設に向けて

Q 世界における健康の取り組みには資金の問題も重要です。アレックス・ロスさんは、革新的な保健融資制度にも取り組んできたとうかがいました。

ロス WHOには経済学者や健康に関する資金プログラムの専門家がいます。そうした専門家の経験に加えて、私個人の経験についても少しお話したいと思います。

2010年、WHOは医療費制度についての世界保健報告を出版しました。ここでは、各国がそれぞれの医療制度の財源確保ができるよう様々な選択肢を特定してします(詳細はWHOウェブサイト参照のこと)。

2008年にマーガレット・チャン事務局長の下、新たな世界的財政危機に対応するべく、WHOは各国の保健担当官を集めて、特に弱い立場の人々を保護し、彼らの保健、社会制度を支援する必要性を強調しました。

その後、インフルエンザパンデミック対策の国際的交渉にあたって、WHOでは、各国がパンデミックへの備え、対応を強化できるようオプションを作成しました。それには、ワクチン製造業者、その他の民間団体、世界銀行/国際通貨基金と協働するなど各国の取り組みを財政支援する可能性につき新たなアイデアが盛り込まれました。私もこれらの資金供給のオプションの作成に大いに関与しましたが、日本もこのインフルエンザパンデミックの分野で、大きな役割を担ってくれました。

また、私は、医薬品特許プール管理機構(特許、知的所有権を管理機構を通じて共有するという革新的取り組み)やミレニアム財団の設立への支援とともに、国際連帯税(タバコ税)などの革新的な保健資金調達の仕組みづくりにも関わりました。すでに多くの国では、タバコ税を導入していますが、先進国が米ドルでわずか3〜5セントぐらいの追加課税をタバコ1箱に課すだけで、税収が日本円にして数千億円になるというのがここでのアイデアです。

国際連帯税は、国ごとに決めないといけない問題ですが、この連帯税を通じて、地球規模の公衆衛生向上のため資金面での貢献をするという仕組みで、これにより、自分の国で集めた税金が世界で役立てられることになります。この他にも、創造的・革新的な資金調達の仕組みとして、航空券連帯税の導入があります。先ほど述べたUNITAID(ユニットエイド)もそのような取り組みの中から誕生した機関です。

WHOは資金を直接提供する機関ではありません。私たちの本来の役割は①新しい基金の可能性につきアイデアを提供する②基金のメカニズム設計に携わる③集まった基金に対して各国からの応募を手助けする、などにあります。もちろん、こうした資金メカニズムを評価することも私たちの大切な役割です。

 国民皆保険のための3つの側面
   
2010年世界保健報告では、医療費制度について「対象とする集団、対象とするサービス、費用」の3つの観点を踏まえて国民皆保険のための資金調達の問題に言及している。(上記図は世界保健報告「Health Systems Financing: The path to universal coverage」掲載図をもとにCSR編集部が作成)

 

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