華やかな都市生活に埋もれた健康格差の是正に目を向けよう

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)所長 アレックス・ロス氏に聞く

70億人を超えた世界人口。その半数以上が都市に住んでいます。格差は最貧層と最富裕層の間だけでなく、すべての都市部の階層に存在します。例えば、都市部の最貧層の5歳未満児の死亡率は、最富裕層の2倍に上ると言われています。先頃、WHO神戸センター所長に就任したアレックス・ロス氏は、こうした都市における健康格差の是正などの使命を帯びています。世界の保健の動向と課題について聞きました。

低所得国および中所得国42ケ国の都市部における5歳未満児の死亡率(地域別)
 
出典:『隠れた都市の姿:健康格差是正を目指して』
人口保健調査(DHS)のデータに基づきWHOが算出、2000-2007。
注:これらの結果は5歳未満児の死亡率に関してEHSデータが存在する国(アフリカ25ヵ国、アメリカ7ヵ国、アジア10ヵ国)の平均値を示すものであり、それら地域の全体像を示すものではありません。

WHOとWHO神戸センターの役割

Q WHOにおける神戸センターの役割と、アレックス・ロスさんが考える課題についてお聞かせください。

WHO神戸センター所長 アレックス・ロス氏

ロス WHO(世界保健機関)という組織の中での、WHO神戸センターの位置付けからお話ししましょう。WHOは、1948年に設立された国連の専門機関です。WHO憲章では、可能な限りのレベルにおいて健康であることがすべての人間の基本的人権の一つであるとしています。WHO本部はスイスのジュネーブにあり、WHO神戸センター(公式名称:WHO健康開発総合研究センター)は、リヨン(フランス)、チュニス(チュニジア)と並んで、WHOがジュネーヴ本部の外に置く3つあるセンターの1つです。

神戸センターは日本におけるWHOの唯一の機関でもあります。1995年、阪神大震災のあとに設立されました。兵庫県、神戸市、神戸商工会議所、(株)神戸製鋼所からなる地元財政支援団体「神戸グループ」の財政支援に支えられ、各種の研究活動を行っています

 

都市の健康格差に取り組む

Q 様々な分野で活動されていると伺っています。

ロス 神戸センターが包括的に目指すのは、世界の都市における「健康格差の是正」です。この目的に係るいくつかの分野で活動しており、その第一が、エビデンスの収集とデータの監視です。WHOは2010年に重要なグローバルレポート『隠れた都市の姿:健康格差是正を目指して(Hidden Cities: Unmasking and Overcoming Health Inequities in Urban Settings)』を発刊しました。

世界の人口の50%は都市に住んでいます。しかし全世界での急激な都市化ともに、同じ都市の中でも、富裕層との貧困層において大きな健康格差が生じていることが顕在化しつつあります。この健康格差を是正しなければ、健康に関するミレニアム開発目標を達成することはできません。前述のグローバルレポートは、この都市における健康格差是正に向けてWHOと国際連合人間居住計画(国連ハビタット)の戦略の一環として作成したものです。また、2010年11月には、世界の都市の代表者などを神戸に集めてグローバルフォーラム「都市化と健康を考える」を開催し、「都市における健康」に関する神戸行動宣言を発表しました。「都市の健康格差を是正する」ことを目的に、都市の健康政策を評価するシステムを開発しました。

 
グローバルレポート『隠れた都市の姿』では都市部の貧困層が抱える
疾病や健康問題について実証データを元に解説している。

Q 都市部の健康格差という点について、もう少し詳しく教えてください。

例えば、前述のグローバルレポートのデータによれば、大阪市には24の区がありますが、結核の疾患率をみると、ある区では10万人に31人、別の区では10万人に284人という地域格差がみられます。参考までに10万人に284人という数字は、インドの国全体の平均疾患率である283人にほぼ匹敵する数字です(なお、大阪市全体では10万人に57人です)。ここで申し上げたいポイントは、世界のあらゆる都市部において、同じ都市内でも地域間で健康状態や病気に大きな格差(不均衡)があるということです。大阪市の事例は、皆さんに日本でさえも地域によって大きな健康の格差が存在し、見過ごすことのできない課題であること、また、都市が政策の立案、事業の決定を行う上で、こうした情報が役立つ例として、知っていただきたいと思い、あえて申し上げました。

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