欲望をもっとコンパクトに。自然と共生する。[後半]

坂本龍一(音楽家)+後藤正文(音楽家)+岩井俊二(映画監督)

「311東日本大震災 市民のつどい Peace On Earth」から、音楽家の坂本龍一さんと後藤正文さん、映画監督の岩井俊二さんの3名によるトークセッション後半。震災後の原発問題と映像表現への影響、リスクのない社会を創るためになどをご紹介します。

◆欲望をもっとコンパクトに。自然と共生する。[前半]

「311東日本大震災 市民のつどい Peace On Earth」

環境問題を世代間の戦争にしてはいけない

坂本 地球には限られた資源しかありません。それを未来の世代も使えるよう残さないと……。いかに持続可能な形で使っていくかということを急いで考え、実行しないといけないのです。

環境問題というのは一面では世代間の戦争だと言われます。限られた資源を未来世代に残していくには、未来世代とシェアしていくという心持ちが必要です。未来の世代の分まで分捕って今使おうというのは、未来世代の権利を奪っていくことになります。

岩井 子供たちの未来が掛かっているわけですね。

坂本 一日の中で自然のことを考える時間がどのくらいあるかというと非常に少ないですね。自然が発しているメッセージに耳を澄ますことを忘れがちです。自然が牙をむいたのが今回の震災です。しかし、人間はすぐに忘れる動物です。僕は自然の声を聴くというのはアートとか、音楽とか、芸術の根源的な役割じゃないかと思っています。

なにも高尚なことではなくて、僕らの先祖が洞窟で暮らしていたときから、獣はどこにいるかとか、いつごろ出てくるとか、足跡を見てこれはどんな獣か、雲を読んで雨が降るか、海の状態を見て1週間後に魚が来るとか、そういうことが分からなければ生きていけなかったはずです。それは生存の必須条件ですよね。本能ともいえる生存能力が現代社会に暮らしていると鈍化していくわけです。それを呼び覚ますのは音楽や映画やアートの力ではないかと思っています。

後藤 僕も縄文時代とかに興味がありまして、いつも何かを調べると私の前に坂本さんがいるわけです。森のことなんかも調べると坂本さんがいました。

坂本 すみません。これからはどんどん抜いて行ってください。 僕はもうおじいちゃんなので……。(笑い)

ジャーナリズムは謙虚に

坂本 岩井さんは3月11日以降も映画を撮り続けていますよね。

岩井 『friends after 3.11【劇場版】』というドキュメンタリー映画をつくって、この間パート2ができました。これは僕以外の監督にも呼びかけて、みんなで手分けして、いろいろな人に会って話を聞いているのですが、まだまだ続けたいと思っています。

311後、被災地のテレビ報道なんかを見ていると、混沌としている中で、よく知っている人たちの正しい情報を聞きたいという純粋な思いが生まれました。メディアの中でも戦っている人たちがいます。自分を貫いて戦っている人たちに感謝する以外になかったのですね。そんな人たちがいなかったら何の情報も入ってこなかったわけですから。

福島の原発だって、下手したら爆発していないらしいよ、なんてみんなで言っていたかもしれません。100年前だったら、いやあそこは爆発していないよ、という話をみんな信じていたかもしれません。大手メディアがそうした情報を封じ込めようとしても、今はインターネットなどもあります。大手メディアはジャーナリズムを忘れてしまった面があります。ジャーナリズムは真実を伝えることが使命だという話がありますが……。

坂本 嘘ですね。

岩井 ええ。

坂本 ずっと嘘だったのですね。そういう歌があったくらいです。

岩井 真実と事実の狭間の中で訳が分からなくなっていたという気がします。戦うジャーナリズムの使命を忘れて、自分たちにとって可もなく不可もない情報だけをわれわれに向かって撒いていたというところでしょうか。

それってお互い愛情が足りない関係を築いていたのかなあと思います。そこでfriends=友達という言葉を真ん中において、いろいろなことを考えてみたいというのが今回のドキュメンタリー制作のきっかけでした。

坂本 政治家も登場するのでしょうか。

岩井 政治家の人まではまだ取材できていません。政治家にインタビューすると選挙が始まると放送できなくなるといった制約もありますし。

岩井 ただ、菅直人さんとかにはあのときどうだったのか聞いてみたい気がしています。

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