CSRフラッシュ

ムハマド・ユヌス氏が提唱するソーシャル・ビジネスとは?

革新の技術と創造力が経済の枠組みを変える

16年前に開始した家庭向け太陽光発電事業

ユヌス:重要なのは、私利私益のための金儲けではなく、問題解決のためのビジネスであるという事です。もう一つの事例をあげましょう。

16年前、バングラデッシュには約1億6千万人の国民のうち70%の家には電気がなく、油をともしたランプしかありませんでした。非常に大きな問題でしたが、私は一つのチャンスと考えました。もともと化石燃料による電気がないからこそ、再生可能エネルギー、太陽光発電が向いているのではないか。小さな会社を立ち上げ、家庭向けの小さな太陽光発電システムを販売しました。もちろん人々の意識を変えるのが大変でした。「なぜ、お金を払ってまで太陽光発電システムを使わないといけないのか。すぐ壊れてしまうのではないか」と考える人も多く、当初は5台のシステムを販売するのも大変でした。しかし、人々に家庭用太陽光発電システムの良さが少しずつ浸透し、16年後の現在は、1日に千台が売れるようになりました。現在、バングラデッシュでは約100万台の太陽光発電システムが普及しています。原油や灯油価格が高騰する中、太陽光発電システムの価格は安くなり、今後はさらに普及が加速化するでしょう。

ここでもビジネスの目的はエネルギー問題を解決することであり、私利のための金儲けではありません。会社として利益は出ますが費用を賄い、銀行からの融資を返済するためです。こうした仕組みが私の言うソーシャル・ビジネスです。

無配当がソーシャル・ビジネスの大原則

ユヌス:こうしたソーシャル・ビジネスに従事する会社は株主に対して“無配当”のNon-Pidend Companyです(出資額以上の利益を配当しない)。つまり世の中には2種類のビジネスがあります。利潤を追求するためのビジネスと、社会問題を解決するためのビジネスです。しかし、この2つは対立するものではなく、一人の同じ人間が同時に利潤を追求しながら社会問題を解決することができます。そして、我々一人ひとりが「ソーシャル・ビジネスをやってみよう」と思うことで、従来と異なる経済の枠組みを創りだすことができます。

これまでの社会では利潤追求一辺倒のビジネスが中心でしたので、世界の経済社会自体が金儲け中心主義となってしまいました。次々と問題が発生しながら、我々自身が政府任せとし、政府ばかりが大きくなり、しかし、問題は解決しないままとなっています。

ソーシャル・ビジネスというのは特に新しいものではありません。
基本的に人間は、無私の心、誰かを助けたいという気持ちを持っていると思います。しかし、多くの人は社会の枠組みから出ることが出来ません。少しだけ境界線をはみ出ようとしたり、また引っ込んでしまったり。例外的な個人が素晴らしいことを成し遂げるのを待つのではなく、我々は常に社会的な枠組みというものを再定義していかなければ、現実は変わらないと思います。

かつてのビジネスは100%を利潤追求する考え方でした。99%利潤追求、1%を社会に貢献する、98%と2%などとさまざまなバランスがあるでしょう。その究極に100%慈善事業で利潤追求が0%というあり方もあるわけです。私は、利潤追求0%というコンセプトに焦点を置いたビジネスに注目しています。全く利益を追求しないビジネスというコンセプトを考えた瞬間に大きな変化が生まれるからです。

ここでいう利益の追求はオーナー自身および出資者が(出資額以上の)利益を追求しないという意味です。もちろん会社としてはソーシャル・ビジネスを通じて利益が出て、社会問題解決を続ける資金となるわけです。しかし、今までの「お金を儲けなければいけない」という拘りから解き放たれることで、皆さんは本当に大きな自由を手にし、アイデアを手にすると思います。

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