CSRフラッシュ

ムハマド・ユヌス氏が提唱するソーシャル・ビジネスとは?

革新の技術と創造力が経済の枠組みを変える

企業が社会的責任(CSR)と同時に新たな市場を模索する、そうした動きの中で、ソーシャル・ビジネスの概念が広がりつつある。「ビジネスには2通りある、オーナーが私利を追求するビジネスと、社会問題を解決するためのソーシャル・ビジネスだ。」バングラデッシュにあるグラミン銀行創設者でありマイクロクレジットの創始者でもあるムハマド・ユヌス氏はそう語る。本来のソーシャル・ビジネスとは何か?2012年7月25日、シリウス・インステイテュート株式会社(舩橋晴雄 代表取締役)主催の第91回シリウス企業倫理研究会から、ユヌス氏スピーチをご紹介する。

ムハマド・ユヌス氏(左)、シリウス企業倫理研究会

子どもたちの夜盲症を解決するために始めた種苗ビジネス

ユヌス:私が今からお話することは哲学など学問で得たものではなく、全て経験に基づくものです。教科書的に言えば「お金」の使い道を「消費する」「投資する」、それによってさらに(お金を)「生み出す」ことです。使い道の一つに他者を助けるためにお金が使う“慈善”もあります。ビジネスで忙しい方々が、余剰金を他者のためにさしだす、慈善は分かり易いお金の使い方です。

ビジネスは一つの枠組みの中で利潤を追求していくもの、ビジネス=金儲けと同義語と考えられてきました。しかし、私はビジネスには、金儲けという概念だけでなく、(社会の)持続可能なサイクルを創りだすというコンセプトもあるのではないかと考えています。

ビジネスとはビークル(vehicle)といえるのではないでしょうか。人や食べ物を(社会に)運ぶ乗り物・車両(vehicle)であると同時に、社会の問題を解決する媒体・手段(vehicle)だと思います。

私がバングラデッシュで最初に貧困層の人々と一緒に行ったプロジェクトは、貧困層向け金融サービス、マイクロファイナンス(無担保少額融資)でした。プロジェクトを通じて人々は所得を得ることが出来ましたが、私自身は人々と接することで、さらに貧困層における様々な問題を知りました。まず気づいたのは子どもたちが夜暗くなると目が見えなくなることです。医者に聞くと「これはビタミンA不足による夜盲症です。ほっておくと目が見えなくなります」と。

私は子どもたちが自分で野菜を栽培し、野菜を食べるようにすることを奨励しましたが、母親たちでさえ「野菜の種など見たこともない」と言います。そこで、私は野菜の種を人々に1袋1ペニーと誰でも買えるわずかなお金で提供しました。無料で配布すると一部の人たちが独り占めしてしまうからです。野菜づくりは急速に人々に広まりました。

最初は海外から種を輸入していましたが、段々と国内で栽培した野菜から種を採取できるようになり、いつしか我々は国内トップの種苗業者となっていました。そして、子どもたちが野菜を多くとるようになり、夜盲症の問題も解決していました。

ポイントは、私がビジネスを通じて取り組みを行ったことです。私が無償で野菜の種を提供したならば、そのための資金を得るビジネスに忙殺されるか、他者からの資金を得なければなりません。しかし、ビジネスの仕組みで社会問題を解決するようにしたことで、得た利潤をさらに問題解決のための資金に使うことができる、リサイクルすることが出来ました。以来、私は社会問題に遭遇するたび、ビジネスで解決できないかと考えるようになり、50以上のプロジェクトを立ち上げ、いくつかは全国規模のものとなっています。

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