CSRフラッシュ

ムハマド・ユヌス氏が提唱するソーシャル・ビジネスとは?

革新の技術と創造力が経済の枠組みを変える

Q3. マイクロファイナンスでは担保をとらないとのことですが、融資を受けた側に個人保証も全くとらずに、返済者の事業がうまく行かない場合に返済しないで逃げてしまうなど、モラルハザードといいますか、問題が起きないのでしょうか?

ユヌス:ビジネスである以上、絶対の信用はあり得ないかもしれませんが、根本にあるのは(対象となる貧困層への)深い信頼関係、「あなたのために創った制度だ」ということです。これまで私たちは数十億円を担保なしに融資してきました。我々の拠点は発展途上国だけでなく米国ニューヨークにも4つの拠点があり、1万人の方が借りていますが、どこも現実に98~99%の返済率です。なぜなら、彼らは人間として初めて信頼され、融資される、そのことによって人間としての威厳を取り戻すからです。私たちは返済できない場合の罰則は設けません。一人ひとりと向き合って、彼らの背景にある問題に寄り添います。私たちのグラミン銀行はそうした皆のための銀行です。

Q4.ユヌスさんが提唱されるソーシャル・ビジネスシステムの永続性を保証するものは何でしょうか?人間の倫理性にというようなもので永続性が担保されるのでしょうか?

ユヌス:融資や取引の際には、人の倫理観といった抽象的なものでなく、実際の信頼関係のもとに融資をする、例えば単に知らない人に融資してお金が戻ってこないのは当たり前です。本当にその人が返せる仕組み、地に足がついたビジネスの仕組みを創ることが大前提となります。ソーシャル・ビジネスにおけるビジネスもまた、市場で売れるものをつくって売る、そして利益が出る仕組みである必要があるのは当然です。しかもソーシャル・ビジネスだからこそ、その商品が貧しい人々が買える価格でなくてはなりません。きちんとしたマーケティング分析、商品力、革新的な技術があって、はじめて社会的な問題を解決するビジネスとなるのです。

われわれの太陽光発電事業の場合、投資家が資金を投入する目的は(自らの利益ではなく)電気がない家に出来るだけ早く安く再生エネルギーを提供することでした。そして、その実現のためには、再生エネルギー事業における先進的な技術と優れた発想力が何よりも不可決だったのです。

※研究会はシリウス・インステイテュート株式会社が主催して2012年7月25日に行われたものです。主催団体の協力により当日の模様をまとめました。文責はCSRマガジン編集部にあります。

○ムハマド・ユヌス氏

米国で経済学の博士号を取得後、1969年から1972年までミドルテネシー州立大学で経済学教授として講じ、1972年にバングラデシュに帰国。1976年に低所得者層の自営業者、特に貧しい女性に小口融資を行うグラミン銀行プロジェクトを開始。「貧者のなかの貧者のための信用制度には、抵当も担保も必要ない」を理念とするグラミン銀行は、現在 2,475の事業所を有し、バングラデシュ80,511村7,400万人の低所得者に貸付けを行っている。マイクロクレジットを利用し貧困からの脱却に成功した活動が評価され、グラミン銀行とユヌス教授は2006年にノーベル平和賞を受賞。
●ユヌス・センター ( http://www.muhammadyunus.org/ )
●グラミン銀行 ( http://www.grameen-info.org/ )

○研究会についてのお問い合わせ先
シリウス・インステイテュート株式会社 代表取締役 舩橋晴雄 氏

E-mail: hf@sirius-instirute.co.jp
1969年東京大学法学部卒。同年、大蔵省入省。大蔵省広報室長、在フランス日本国大使館参事官、副財務官、国税局次長。証券取引等監視委員会事務局長、国土交通省国土交通審議官などを歴任し、2002年退官。2003年、シリウス・インスティチュートを設立する。著書は「イカロスの墜落のある風景」、「日本経済の故郷を歩く」、「新日本永代蔵」、「古典に学ぶ経営術三十六計」、「荻生徂徠の経営学」など。

○ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センター(SBRC)
http://sbrc.kyushu-u.ac.jp/

2007年に九州大学がグラミン・コミュニケーションズと交流協定を締結後、ユヌス教授のソーシャル・ビジネスのコンセプトを世界に広め、実現を支援する活動を行うべく2011年に設立。ソーシャル・ビジネスの研究、調査、普及。充実した社会的制度の構築, 世界中の関連機関とのパートナーシップ構築, 地球規模の課題 (貧困, 保健, 環境, エネルギー, 教育, 自然災害など)解決に向けた複製可能なソーシャル・ビジネスモデルの構築を目的に活動を行う。

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