識者に聞く

なぜ、高速ツアーバス事故はなくならないのか

国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員 JR連合自動車連絡会顧問 佃 栄一さんに聞く

規制緩和で安全を置き去りに

Q2 このような事故が起きる社会的な背景をどのようにお考えですか。

佃:橋本政権以降、自民党政権により2000年・2002年に道路運送法の一部改正が行われ、貸切バスや乗合バス事業への参入を免許制から許可制にして、需給調整規制を廃止して参入を容易にしました。

貸切バス事業は利益を出せる業態ではないだけに、新規の参入は少ないと国交省は楽観的に見ていましたが、実際は雨後の竹の子のように新規参入が増えていきました。貸切バス事業者数は1998年の段階で2,100社だったものが、2012年現在で4,500社近くになっています。

実態を探ってみると所有バス30両以下の中小規模事業者が全体の9割と圧倒的に多く、さらにその7割が10両以下の小規模零細事業者で占められています。5両あれば貸切事業参入許可の対象(乗合バスは6両)となることから、元来の無許可事業者が2両と3両を持ち寄って5両とし、形だけ法人格にして事業申請を行い参入している事実もあります。関越道で事故を起こした陸援隊もその1つです。

当然ながら資本力がありませんから、大手バス会社が廃車にしたバスを50万円とか60万円で購入し、車体の色だけを塗り替えて事業を行い、安全投資は後回しになっているところも少なくありません。2007年大阪府吹田市で発生したスキーバスの事故が1つの例です。

規制緩和ありきという政治判断はバス産業そのものを大きく変え、乗合バス路線からの撤退が加速し、2006年以降では毎年2,000キロ以上。2009年度末までに約8,600キロが廃止されています。地方乗合バス事業者の民事再生・会社更生法の法的整理が進み、交通空白地・限界集落の拡大につながっています。

業界の構造にも大きな問題が

Q3 高速ツアーバスの仕事というのはどのように流れているのでしょうか。

佃:小規模零細事業者の多くは家族経営だったり、わずか数人の従業員で運営しているところが多いのです。独自に集客する力がないので、旅行代理店などから仕事を受けるしかありません。旅行代理店も旅行の繁忙期はある程度の金額で発注しますが、閑散期には採算を度外視した企画も少なくありません。そうしたしわ寄せが貸切バス事業者に重くのしかかっています。

採算の合わない仕事は受けるべきではないと思われるでしょうが、採算の合わない仕事とピーク時の仕事がセットになっているわけです。オフシーズンの仕事は採算が合わないからと断れば、ピーク時の仕事ももらえなくなってしまいます。

私が住む大阪から北海道旭川市の旭山動物園への冬のツアーは1人4万円です。行きは飛行機で伊丹空港から羽田を経由し函館に飛びます。函館からはバスに乗って途中観光をしながら定山渓温泉で一泊し、翌日旭山動物園などを観光して千歳空港から伊丹空港に帰るというバスツアーですが、これでバス会社にどれだけの金額が支払われるでしょうか。おそらく運転手とガイドの人件費に加え、燃料費・道路通行料・バスの減価償却等も掛かりますが料金は10万円にも満たない金額でしょう。

貸切バス一台当たりの料金は現在一日6万円程度ですが、実態は公示運賃を大きく下回っています。結果として働く人たちの労働環境の悪化、賃下げに結びついています。貸切事業者の中には社会保険や公的年金等の加入をしない、健康診断もしない(深夜に運転する場合は年二回が義務付けられています)、アルバイトの運転手を雇用する(法律では、最低2か月以上の乗用雇用が原則)など事業主は経費削減に必死になっています。

事故が起きると乗客への対応ができず、瞬く間に倒産し、数か月後に別会社となって再登場するといったケースも見られます。関越道の事故でもバスの運行会社が倒産し、死亡した乗客の家族だけでなく負傷者した乗客も怒りが収まりません。

事故をバス会社だけの責任にしている、企画旅行業者の安全に対する意識の低さも指摘されています。重要なことはツアーを企画した会社が最後まで責任を持つことと、安全を最優先した行程の作成に責任を持てるよう旅行業法の改正が必要だと思います。

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