識者に聞く

なぜ、高速ツアーバス事故はなくならないのか

国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員 JR連合自動車連絡会顧問 佃 栄一さんに聞く

1年後をめどに新高速バスサービスに移行

Q6 高速ツアーバスが急成長した背景には、社会の需要があったことも確かです。それを法令遵守や規制を厳しくするという動きだけで、問題解決につながるのでしょうか。

佃:利用者数年間600万人という数字は確かに大きな需要を示しています。ただし、安く旅行をしたいというニーズは理解しますが、命と引き換えでは本末転倒です。

国交省の「あり方検討会」では関越道の事故後、「高速ツアーバス」と「高速乗合バス」の間に存在していた規制の垣根を取り払い、実態を把握する中から、安全確保が担保できる新たな方策づくりを進めています。その結果、1年後をめどに「新たな高速バスサービス」として2つの事業モデルを統合していく方針です。

改善のポイントを分かりやすくいうと、「高速ツアーバス」を運行する貸切バス事業者も「高速乗合バス」事業者同様に乗合バス事業の資格を取得し、24時間の運行管理体制が求められるようになります。もう1つ、400キロメートルを超える夜間の運行については2人乗務と決められました。私自身は、運転手の乗車距離数による1人乗務か2人乗務かという取り決めについては、「実車距離」でなく回送距離も含めた「総運行距離」にすべきだと主張しましたが、今回は持ち越すことになりました。

また、一定の安全確保措置があれば、バス事業におけるアウトソーシング規制の緩和を認めることになりました。貸切バス事業者の安全運行確保が、乗合バス事業者の水準に到達しているかどうかを見極めるため、業界独自の監査体制も行うことになります。ただ、これについては、先にも述べたようにバス・タクシー・トラック等の事業者数を考えると本来の監査がどこまでできるのか手放しでは喜べません。

バス事業の健全な発展とお客様の信頼回復のためにも法令遵守や安全確保が求められますが、それにはコストが掛かります。運賃や料金の適正化にどこまで利用者が理解を示すのかを見極めつつ、地域ごとのブロック・下限運賃設定なども1つのアイデアとして取り入れていく必要があると考えています。

都市間の高速乗合バスや高速ツアーバスに光があたる一方、地方の乗合バス事業が次々と廃止を余儀なくされています。高齢者が多い限界集落では、乗合バスの存続が新たな社会問題になりつつあります。

貸切・乗合バス事業の発展は“乗って残す”しかありません。地方と都市部の格差を埋めるためにも一定の補助制度を作り上げ、公共交通として残していくことが求められています。高齢化社会が進む中、人々の移動する権利も含め社会全体で議論していくテーマです。(2012年8月取材)

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