識者に聞く

電気自動車が切り拓く自動車の次の100年

三菱自動車工業株式会社常務執行役員社長補佐 CSR推進本部長環境担当役員 大道 正夫

電気自動車とはどのようなものか

大道:外部電源からの電気を電池に蓄え、モーターで走行するものを「電気自動車」と呼んでいます。燃料生産、供給から走行までの総合エネルギー効率が高く、走行中の排気ガスがゼロとなります。

先ほどT型フォードの話をしましたが、電気自動車そのものはガソリン自動車と同様に19世紀の末には存在していました。

構造的にはガソリン車の方が複雑です。エンジンの中のシリンダーという筒の中で、空気とガソリンを混ぜたものを入れて、プラグで点火して爆発させるという操作を繰り返し、ピストンの上下の動きを回転運動に変えることでクルマが動くわけですが、エネルギー効率からすれば無駄な部分もあります。

電気自動車は電気でモーターを動かすだけ……子供の頃にマブチのモーターというのがありましたが、電池とモーターがあれば走るわけですから、機構はこちらの方が簡単です。最初に電気自動車を考えた人たちは、こちらが将来性はあると考えていたようです。

1908年にT型フォードが生まれ、エンジン自動車の爆発的な普及に貢献しました。大きな理由の1つは電気自動車に比べて安かったこと。つまり大量生産に適していたということでした。あのエジソンも電気自動車をつくっていました。なぜ普及しなかったかというと、構造は簡単だったのですが、使い勝手が悪かったという点にありました。

たとえば、走る距離が短いという問題がありました。遠くに行こうとすると大量の電池が必要でした。ガソリン車に比べると使い勝手が悪く、敗れていったわけです。その後、何回か復活させようという動きはありました。排ガスによる公害問題が深刻になり、排ガスの出ないクルマをつくれないかという模索は早い時期からありました。

1997年に京都議定書ができ、温暖化の問題が地球規模で深刻な社会問題となりました。

●70年代から電気自動車に着目

大道:三菱自動車は70年代の初めから電気自動車の研究は進めていました。90年代の初めには実用車をつくっていましたが、全く売れませんでした。理由は高いということです。1台1千万円以上していました。当時は鉛電池でしたが、なにしろ重いわけです。クルマの重さの半分くらいは電池の重量です。

しかも電池のへたり方が早く、3年もすると電池の蓄電率が落ちて、どれだけ走るか見当もつかないとか、重いので坂道の登攀に弱いという点もありました。

2000年頃からもう一度見直そうということで再チャレンジしました。なぜかというと、1990年代に入ってリチウム電池が開発され、その恩恵で携帯電話の小型化が進み、携帯電話が一気に普及しました。リチウム電池の特徴はコンパクトでたくさんのエネルギーを蓄えることができる点にあります。リチウム電池の登場によって電気自動車の実用化も可能になっていきました。

●世界に先駆けて電気自動車の量産製造を開始

大道:その成果として2009年に量産型のi-MiEVを発表しました。

電気自動車の特徴をおさらいすると、①総合エネルギー効率が最も高い ②CO2の排出量が最も少ない(走行中はCO2を排出しない。電気の発電にはCO2が出る) ③脱石油でガソリン無しで走る ④電気代はガソリン代より安い ⑤排ガス、騒音、振動がないというものです。

ガソリン車との比較についてはいろいろな方がやっています。2008年の6月に北海道で洞爺湖サミットが開かれました。そのとき東京から北海道県庁まで860kmをi-MiEVが走破しました。かかった電気代は約 1,700円。1 km 走るのに2円という計算です。ちなみに同じ距離をガソリン車で走ると約10,000円かかります。同時にこのときのCO2の排出量は発電量に換算すると約35kg、ガソリン車だと約175 kgだとされています。

i-MiEV の場合、リチウムイオン電池の大きさは畳一畳分で200 kg以上となります。i-MiEVそのものはガソリン車をベースにしていますが、電池の重さで同型のガソリン車に比べると重心が75m/m下がっています。あえていえば、走行中の安定性が高く、コーナーワークも良いという点があげられます。

i-MiEVの場合、電池の重量は自動車全体の20%以下にまで下がっています。電池も次第に軽くなっているのです。ちなみにモーターですが、非常に出足のよいモーターで、出足が良すぎるために少し抑え気味に調整しています。

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