識者に聞く

電気自動車が切り拓く自動車の次の100年

三菱自動車工業株式会社常務執行役員社長補佐 CSR推進本部長環境担当役員 大道 正夫

●充電方式をめぐって熾烈な競争が

大道:いま、電気自動車をめぐって各国で充電方式が問題になっています。どの充電器であってもちゃんとつながるようにしないと電気自動車は普及しません。日本国内は同じ方式で統一しました。私たちはすでに輸出も始めています。世界に行っても充電ができるようにしないといけません。ところが我々の方式にドイツやアメリカが待ったを掛けています。国際標準をどこが取るかという争いですが、ドイツやアメリカが提案する方式はまだ世の中に存在していません。数年掛かると言われています。日本国内ではすでに急速充電器だけで1,000台の設置が行われています。

電気自動車の課題は、「価格が高い」という点と「走る距離が短い」という点にあります。走る距離が短いという課題は、エコドライブを行えばガソリン車でもリッター当たりの走行距離が伸びるように、電気自動車でもエアコンを控えめにしたり、ゆっくり加速をすれば、走行距離はそれなりに伸びることが分かっています。

走行距離が短いという点を補うため、充電インフラの拡充にも努めています。ガソリンスタンドをはじめショッピングセンター、コンビニ、民間駐車場、高速道路のパーキングエリア、観光地の京都では神社仏閣にもかなり設置を進めています。

電気自動車の使い道

大道:3.11の東日本大震災の後、当社は89台のi-MiEVを被災地に供与しました。従来の自然災害でもクルマを供与する例はありましたが、今回、電気自動車がほしいという声が数多く寄せられました。震災後、各地でガソリンの供給がストップしたからです。電気は一番早く復旧しました。

i-MiEVの販売開始後の活用事例ですが、観光地におけるレンタカー(京都など)、防犯パトロール(埼玉)、タクシーなどのほか、長崎県五島列島は電気自動車の普及に熱心に取り組んでもらいました。五島列島では、100台のi-MiEVのパレードを行い、ギネスに登録するというイベントもありました。

五島列島は島だということもありますが、ガソリン代が高いのです。電気自動車をもつメリットがあります。世界遺産に登録しようということで環境志向も強く、環境対応にも熱心です。

●電気自動車を移動可能な蓄電池として活用

大道:そうした取り組みを行っていた直後に東日本大震災が発生し、いまさらガソリン車じゃないよねという声をかなりいただきました。電気が不足するという話は、ピーク電力と全体の不足の話が混同されるケースが多いのですが、一般には夏の昼間などのピーク電力が不足するという話です。夜充電するのは全く問題ありません。

被災地で電気自動車がどのように使われたか、私たちもフォローをしました。その中の1つに、せっかく自動車の中に電気が貯まっているのなら、それを使いたいという声がありました。

一番要望があったのは携帯電話の充電、次がパソコンの充電。100Wの小電力供給はシガーライターから簡単に取り出せます。扇風機や電気シェーバーも利用可能です。

次に出てくる要望には、あったかいお茶が飲みたい、あったかいご飯を食べたいというのもありました。これには1500 Wの大電力供給が必要になります。それではということで、電源供給装置(MiEV power BOX)をつくりました。これを使えば洗濯機も回せます。

この装置は野外のキャンプにも使えますし、停電などの際に道路の信号がつかないという問題も解消することができます。この先、電気自動車の蓄電池を停電時や災害時の家、工場、地域社会、電力送電網などに活用するという動きが広がる可能性があります。電気会社は嫌がるかもしれませんが、夜間の安い電気を充電し、昼間に使用するという動きも出てくるかもしれません。

i-MiEVを発売した直後、ドイツからお客様が来ました。ドイツは自然エネルギーに熱心で風力発電が13%も占めていますが、風力発電の電気は電圧が安定しないという問題を抱えています。電気自動車などで一旦電気を貯め、足りなくなったときにそこから送り出すというようなことも考えられるかもしれません。電気自動車の登場で、自動車の役割にエネルギーマネジメントの役割が加わる可能性があります。

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