識者に聞く

グローバル化時代の企業の人権リスクとは?

ラギーの「ビジネスと人権に関する指導原則」について

人権デューディリジェンスとは?

Q.企業は人権への取り組みとして、まず何をすればよいのでしょうか?

白石:まず自社の活動を検証する、デューディリジェンスを実行することだと「ラギー・レポート」では推奨しています。デューディリジェンスは企業買収の際などに良く聞かれることばです。買収する前に、相手の企業価値がどうなのか、買収してどういう問題が起きる可能性があるのか、期待どおりの買収効果が出るのか、仮に問題が出た場合にはどういった対処をするのかなどを詳しく調べる手法ですね。問題が出てくる可能性に対して対策を講じて実行し、その処理がうまくいっているかを定期的にチェック/モニタリングする、最終的にはその結果を報告する、この一連のプロセスがデューディリジェンスです。

これを企業の人権尊重という観点に置き換えて、ほぼ同じプロセスを実行するのが人権デューディリジェンスです。例えば、海外進出など何らかの新たな企業活動を行う際に、まずはどういう人権リスクがあるのかを調べる、不利益を被る人、グループがいるか。いるとすれば、どこで起きるのか、例えば新しい工場で環境破壊を生じさせる可能性がないか、事故の可能性がないか、あるとすれば対策を考慮し、事業計画を事前に改訂する、または工場設計を事故回避のために変更しておく。さらに実際に新事業がスタートしてからも定期的にチェックする、地域住民が不利益を被るような環境問題が出ていないか、もし後からでも可能性が出てくればその後の事業計画を手直しする、最終的には不利益を被る可能性がある地域住民に説明する。これが人権デュージェリセンスのプロセスです。

Q.「ラギー・レポート」等では“人権は必ず侵害される可能性がある”、だからこそ対策が必要であると言っているとのことですが、救済制度もその一つですね?

白石:「ラギー・レポート」が言及しているのは、人権を侵害されている人が、直接会社に訴える、または第三者機関に訴える、それによって「侵害状態をすぐに止めるように行動が起こされる道を開いておきなさい」ということですね。具体的には損害賠償などの裁判、または仲裁など、様々な手段があると思います。大切なのは、そこでは公平な手続きがとられ、圧力によって道が閉ざされることがないようにしなければならないということです。

日本企業の現状を見ると、会社レベルでの救済システムが必ずしも機能しているようには思われません。会社の不祥事が明るみに出る多くは、今でも内部通報、いわゆる「たれこみ」によるものです。もちろん基本的に救済制度がそもそもあるかどうかが重要ですが、日本の企業風土自体が出来るだけ事を表沙汰にしない、秘密主義のままです。企業と人権に関する指導原則で共通して企業に勧めているのは「透明性」です。関係者に隠し事をしない、情報は開示する、これは日本企業が著しく遅れているところだと思います。

昨年は東日本大震災の津波による原子力発電所事故がおきましたが、政府および東京電力の対応は海外からも未だに注目されています。先日もスイスで特集が組まれ、その中では事故直後から現在まで真実を隠しているといった視点で報道されていました。今回の悲劇は、日本の人権への取り組みの大きなケーススタデイかもしれません。

Q.改めて、日本企業と日本人が人権への取り組みを考えるためには?

白石:会社が人権とどうかかわっているかとだけを考えても良くわからないと思います。日本企業が国際的な流れを理解するためには、まず人権とはどういうものか身近な身の回りから考える、一人ひとりの生き方、生活を考えることが必要だと思います。

東日本大震災の折に、女性が避難所で「男性と女性のトイレを別々にしてほしい」と訴えると、世話をしている人に「大変な時に文句をいうな」と言われたということを聞きました。人権というのは社会的に弱い立場、排除される立場にある人やグループの人に配慮することです。女性が着替えもしにくいプライバシーのない避難所でどういった気持ちなのか、そこに配慮するのも人権を大切にすることです。生活のあらゆるところに人権はあります。

そもそも日本では「互いが尊重しあい、人が嫌がることをしないようにする」、それが人権というような風土があります。本来、人権とは「人が幸せに生きる権利を阻まれないようにする」ことであり、実は企業よりも率先して国が「人が大切にされる社会システム」を実現しなければなりません。

日本政府は男女共同参画を推進すると言っていますが、日本では未だに男性が働いて女性が家にいるのがある意味当たり前というのも、世界的には異質な社会だと思います。私は妻も国連で働いていましたので、家庭での義務と責任は完全に半分ずつを条件に、結婚してもらいました。国連は恵まれた職場環境ですが、例えば、転勤を命令されない、転勤を受け入れる場合は共稼ぎの場合は妻や夫が継続して勤務できる転任地を選択することができます。また、私の同僚女性は国連で3年間働くために夫が3年間仕事を休み、のちに彼女が3年間仕事を休んで夫が仕事に復帰しました。また、3年後も元の勤務に戻ることができる、そうした社会システムがあります。まずは男性の働き方が変わらない限り、日本における女性の共同参画というのは絵に描いた餅です。

企業と人権の問題は、1セクションの問題、人事担当者に収まらないテーマです。最も必要であるのは経営陣そして社員1人ひとりの意識改革ですが、これは非常に難しいことも承知しています。しかし、日本企業の多くが経営戦略として、国際競争に勝ち抜く、そのためにグローバル人材を育てることを表明しています。グローバル人材育成のためには、語学や技術だけでなく、企業行動の国際標準を知ること、人の意識を変えることが重要なのです。(2012年10月)

●ヒューライツ大阪

http://www.hurights.or.jp/japan/

[企業と人権] オープンセミナー「CSRに人権を生かす」開催

http://www.hurights.or.jp/japan/new-project/2012/09/csr.html
日時:2012年11月22日(木)13~17時
会場:ヒューライツ大阪 セミナールーム
参加対象:企業のCSR担当、人権担当セクションの方(定員20名)
参加費:1,000円
申し込み・問い合せ先: Email:webmail@hurights.or.jp (TEL:06-6543-7003)

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