識者に聞く
再生可能エネルギーは原発に替われるか第2回 エネルギー国家百年の計を語る
福島の事故を経て、だれもが原発は止めたいと考え始めている。だが、原発に替わるエネルギーとなると、不安と迷いがよぎるのも事実。化石エネルギーへの依存をやめ、再生可能エネルギーへのシフトを果たすにはなにが必要なのか。福島原発事故の調査にかかわった北澤宏一さん、Part2ではわが国のエネルギー政策のあり方について聞いてみた。
福島第一原発事故独立検証委員会(民間事故調)委員長
日本学術会議東日本大震災復興対策委員会
エネルギー政策の選択肢分科会委員長
北澤 宏一氏
太陽電池の可能性
私も太陽電池に関係する研究をしていきましたが、少し前まではおもちゃの領域だと思っていました。田中角栄さんが総理の時代に日本サンシャイン計画があり、そのあとムーンライト計画がありました。サンシャイン計画は太陽エネルギーを新しいエネルギー源として育てるというものでしたし、ムーンライト計画は省エネルギーの対応でした。
日本の太陽電池は今でも技術的に一番だと言われるのは、初期の頃にそれを買ってくれたドイツやイタリアやスペインのおかげです。電気のコストで比べると10倍くらい高いものでした。チェルノブイリのような事故が起きるよりはよいかというレベルでした。現在、日本の電気の価格は、家庭用がキロワットアワーで24円くらい、工場だと10円から15円くらいです。私が太陽電池をやっていた頃はキロワットアワーで100円かかりました。それでも欧州で買ってくれたのです。
やがて量産効果が出てきました。ほかから買うよりも自分で発電した方が安くなることをグリッドパリティが成立したと言います。実は再生可能エネルギーの普及では、日本とロシアがいちばん遅れています。
福島の事故が10年前であれば、迷わず原子力に戻っていただろうと思われます。
グリッドパリティに近づきつつある今なら、再生可能エネルギーへのシフトも可能かもしれません。
この6年で投資が10倍、20兆円産業に
世界の再生可能エネルギーの投資額ですが、2004年から2010年の6年間で10倍に増えています。2010年で見ると20兆円になっています。今後数年経つと世界最大の産業に育つ可能性があります。原子力産業よりもはるかに大きな産業になります。
太陽発電の地域別の導入状況を見るとヨーロッパ諸国が熱心です。国民一人当たりでどれだけの太陽電池を導入しているかを比べると、ドイツ、イタリア、ベルギー、スペイン、オーストラリア、フランスの順で、次が日本でした。
日本は太陽電池の技術で最も進んでおり、ヨーロッパの国々に輸出をしていたのですが、この20年間でドイツよりも日本が豊かになったかと自問すると必ずしもそうなっていません。日本人はその間なにをしていたかと聞かれればパチンコをして遊んでいたわけです。
今、パチンコ産業は16兆円の産業です。太陽電池の普及にドイツが使った金額は年間5兆円くらいですから、パチンコの1/3以下で、太陽電池を普及させたわけです。それでどっちが豊かになったかと聞かれればだれもがドイツに手をあげるはずです。
ドイツが脱原発に舵を切れたのはフランスから電気を買えるからだと言われます。ところが調べると、たしかにフランスに対しては輸入超過ですが、東欧や北欧などに対しては輸出超過なのです。ドイツはフランスから電気を買い、その他の国には電気を供給しているのです。
太陽電池で日本の普及は遅れていると申しましたが、日本が追い付くのはさほど難しいわけではありません。今から3〜4年頑張れば十分欧州に追いつくことができます。