国内企業最前線
マングローブ植林の価値を外部の評価で“見える化”
東京海上日動の「地球を守る」活動から1999年から始まった東京海上日動のマングローブ植林。2007年にはこの取り組みを「100年間続ける」と宣言した。このほど課題のひとつであったマングローブ植林プロジェクトの経済的価値の調査を外部機関に委託して、成果の“見える化”を行った。
今回の取材にご協力いただいた皆さん
マングローブの森を育てることは「地球の未来にかける保険」
Q1.長年にわたって取り組んできた「マングローブ植林プロジェクト」の経済的価値について、外部機関により試算されたそうですね。
このプロジェクトは1999年から現在まで15年以上続けられています。2007年には、「この取り組みを100年間続けることを目指す」と外部にも宣言しました。せっかく続けるのならプロジェクトの価値や成果をだれもが分かるよう“見える化”しようと考え、外部の専門家の力を借りて調査を行いました。結果は以下のとおりです。
➀マングローブ生産物収穫量:約87.1億円
➁現場外の漁業生産性の支援:約81.5億円
➂海岸線の安定化と侵食防止:約73.5億円
➃極端な気象からの避難所(被害軽減):約57.7億円
➄水質調整:約47.1億円
➅炭素隔離(気候変動の緩和):約3.4億円
合計:約350.3億円
1つめの「マングローブ生産物収穫量」とは、マングローブの森が育つことで、魚、エビ、貝などの水産物の漁獲が増えていることや、現地の人々がマングローブの木の実を収穫したり、間伐した木を薪や炭、家の建材としても役立ていることを指しています。
2つめの「現場外の漁業生産性の支援」は、マングローブの木の根元で魚が産卵し、育った魚が成長して外洋に出て、域外の人々にも食の恩恵をもたらしています。マングローブの森が「生命のゆりかご」の役割を果たしていることを示しています。
3つめの「海岸線の安定化と侵食防止」は、高波や津波の被害から海岸線を守り、人々の生活を守ること。インドネシアの植林地では海岸浸食を食い止めるため、インドでは河川の浸食を防ぐために植林が行われています。
4つめの「極端な気象からの避難所(被害軽減)」は、2004年のスマトラ沖地震による津波、2013年の台風30号(ハイエン)による高潮の被害をマングローブの木によって逃れた例などを示しています。フィリピンの海沿いの小学校ではマングローブの木につかまって助かった教師がいました。タイでは木々に波が食い止められ、無事だった建物もあります。マングローブはまさに「みどりの防波堤」なのです。
5つめの「水質調整」は、マングローブの森がもつ水質浄化作用です。マングローブが広がることで、淡水資源が守られ、水がきれいになり、海からやってくる魚介類も増えています。
6つめは、「炭素隔離(気候変動の緩和)」の効果です。マングローブの森がもつCO2の吸収・固定効果を指しています。地球温暖化の防止です。
Q2.なぜ外部機関による経済的価値の調査を行おうと考えられたのか、その狙いとするところをお聞かせください。
マングローブの植林には、CO2の吸収・固定効果があり、その定量評価は行っていましたが、生物多様性の保全や植林地域への経済効果などについては必ずしも十分に評価されてきませんでした。
近年、生態系サービスの評価に関する方法論が確立し、各種の国際会議においてもマングローブの生物多様性保全効果や防災効果が注目を集めるようになりました。
昨年はサステナブル・デベロップメント・ゴールズ(環境を破壊せずに持続して資源を利用できる開発を行うという目標)が策定され、世界の注目がサステナビリティ(持続可能性)に集まるとともに、その達成に向けた企業の取り組みへの期待も高まっています。いまこそ当社が1999年から継続的に取り組んでいるマングローブ植林の意義とそのさまざまな効果をより多くの方と共有したいと考えました。それも自己評価ではなく、第三者の評価機関にお願いすることで客観性を担保したいと考えました。
調査は三菱総合研究所にお願いしました。生物多様性や気候変動に関する環境政策ならびに自然環境を活用した地域づくりを専門に研究している方がおり、調査委託先として適切と考えました。
長く続けられ、地球のために役に立つことを
Q3.「マングローブ植林プロジェクト」の歩みを振り返ってみたいのですが、どのようなきっかけでスタートし、どのような広がりを見せているのでしょうか。
東京海上日動の創立120周年事業として1999年に開始しました。「長く続けられる」「地球のために」という社員の声がきっかけでした。
実際に取り組んでみると、マングローブの植林には、CO2の吸収・固定効果に加えて、生物多様性保全の効果、災害被害軽減効果もあり、まさに「地球の未来にかける保険」だと思いました。損害保険会社を本業とする東京海上グループらしい活動だと思っています。
2007年には「マングローブ植林100年宣言」をし、継続していこうと確認しています。
2015年3月末までにアジア太平洋地域9カ国において8,994ha(東京ドームの約1,900倍:建築面積約4.7 ha として計算)の植林を実施し、「カーボン・ニュートラル」を達成しています。2011年度、2013年度および2014年度はグループ全体でも「カーボン・ニュートラル」を達成し、2011年度、2013年度および2014年度はグループ全体でも「カーボン・ニュートラル」を実現しています。
○カーボン・ニュートラル:炭素の排出の収支をゼロ(ニュートラル)に保つこと。排出量が吸収量よりも多い状態を「カーボン・ネガティブ」、排出量が吸収量よりも少ない状態を「カーボン・マイナス」と呼びます。
植林を始めるきっかけは、それぞれの国・地域で少しずつ異なります。タイの植林地ではスズ採掘跡地にできた沼地の再生に、ベトナム、フィリピン、ミャンマーなどの植林地ではエビの養殖池や水田の造成のために伐採されたマングローブの林の復元が目的でした。インドネシア、ベトナム、フィリピン、フィジーは、高波や津波の被害から人々の生活を守るため、インドでは河川の浸食から人々の生活を守るのが目的でした。
今では多くの地域で青々としたマングローブの森が広がり、さまざまな成果が現れています。
Q4.プロジェクトは、国内外のNGO団体などさまざまな人たちとの連携で行われていると聞きました。
日本のNGO/NPOと現地のNGO/NPO、それに現地の行政機関や村人との連携が欠かせません。その意味でまさに協働作業といえます。相互にコミュニケーションをとり、お互いの立場やニーズを理解し合いながら、プロジェクトを進めるようにしてきました。
日本のNGOである公益財団法人オイスカ、NPO法人国際マングローブ生態系協会(ISME)、マングローブ植林行動計画(ACTMANG)とは、5年計画で事業を実施しています。それぞれのNGO/NPOからは1年に2回、詳細なレポートもいただき、綿密なコミュニケーションをとっています。
3つの団体とも担当者や駐在員が定期的に現地に足を運び、現地のパートナーとの良好な関係の構築に努めています。お陰で地域の方とも家族のような関係を築いています。
また、当社もNGO/NPOのご協力のもと、現地を視察・調査したり、パートナーたちと一緒に植林を行うことで、現地と一体であるとの姿勢を伝えるようにしています。
よみがえった森が、人々の暮らしを豊かにする
Q5.現地に住む人々の暮らしの向上につながる取り組みであるとの啓蒙活動も行われてきたのでしょうか。
植林地近くの小学校では、グループ会社の現地スタッフと日本からの参加者が一緒になって「みどりの授業」を行ってきました。授業の後、日本からお土産として持参したボールや縄跳び、フリスビー、折り紙などで交流するのも恒例の行事となっています。
植林地の近隣の小学校では、普段から環境教育の一環として当社プロジェクト地における植林体験を実施しているところも多く、この授業をとおして「大人になってもマングローブをずっと守ってほしい」というメッセージを直接伝えることができます。
また、年に一度、マングローブ植林ボランティアツアーも行われます。国内グループ各社に加えて、米国、欧州、アジアのグループ会社からも社員が参加し、植林国現地駐在員やローカルスタッフも一緒になって植林ボランティアを実施しています。
普段は現地の方たちにお願いしている植林を膝まで泥につかって体験することで、現地の人たちに感謝の気持ちが生まれ、また現地の方たちと交流することで東南アジアの国々がより身近に感じられる機会になっています。
Q6.将来が楽しみになってきました。今後の展開について抱負がありましたらお聞かせください。
マングローブの植林の効果として新しい事例も生まれています。インドネシアではマングローブの種を使ったケーキやプリンを村の女性たちがつくり、市場で販売しています。
ベトナムではマングローブの花を利用した養蜂が行われ、ハチミツが生産されています。ミャンマーでは15年経った森で森林局より間伐の許可を得て建材や薪・炭として売られています。また、マングローブから採れる種を他のNGOに売って村の作業員たちの収入源にしているところもあります。
現地では貧しい地域もあるため、環境に良いというだけで長続きはしません。人々の暮らしに具体的な成果となって伝えることで定着につながります。
最近、インドでは干ばつの被害が広がりあり、家畜の飼料が不足しがちです。マングローブの若葉を切り取って餌にすることが出来て、助かったと聞いています。
最近訪ねたフィリピン・ルソン島の植林地では、2009年よりマングローブ植林を始めており、マングローブの近くの海では、魚、貝、カニなどが豊富に獲れるようになっています。レイテ島の人々がこの経験を学びにルソン島を訪ねる予定です。こうした住民同士の交流の広がりによって、村人が自主的に植林を始めることにも期待が膨らんでいます。
私たちの取り組みでこれまでに8,994haのマングローブの植林が行われ、大きな森が各地でつくられてきました。最初の植林から10数年以上が経過した地域では、広げてきた森を守り育てる活動にも力をいれていきます。
東京海上日動火災保険株式会社
http://www.tokiomarine-nichido.co.jp
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