識者に聞く
あなたのそのつらいお気持ちを電話でお聞かせください
03-5286ー9090 東京自殺防止センターの取り組み減少傾向にあった自殺者数が増える傾向にあります。生きづらさを感じている方々が、新型コロナの拡大による閉塞感の広がりを引き金にして自死を選んでいるのです。自殺願望をもつ孤独な人たちに寄り添い、電話相談を続けているNPO国際ビフレンダーズ 東京自殺防止センターを訪ね、同センター理事の村明子さんに最近の活動について聞きました。
不安、孤独、絶望……死にたいと悩む人に寄り添うには
その胸のうちに耳を傾けることが必要です
――認定NPO国際ビフレンダーズと東京自殺防止センターとはどのような活動をされている団体でしょうか。
村:国際ビフレンダ―ズは、およそ70年前にイギリスで誕生した自殺防止の電話相談機関で、世界40か国にあります。
自殺防止センターは、国際ビフレンダ―ズの日本支部として全国5都県(東京・岩手・あいち・大阪・宮崎)で自殺防止を進めているボランティア団体です。東京自殺防止センターだけで、昨年は1万1千件以上の電話相談を受けています。
国際ビフレンダーズの活動は、日本では1978年に大阪でスタートし、1998年に東京にも組織が誕生しました。バブル経済がはじけた後、日本でも自殺者の数が急激に増え、その数は年間3万人を超えるようになっていました。
自殺は罪だとされてきましたが、私たちの立場は「人は自分の命を決定する権利を持つ」とし、悩める人たちの隣に座って友人のように話を聞くところからスタートしています。
――この数年、自殺者の数は漸減傾向にあり、3万人を割っていましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大で、再び増える傾向にあると聞きました。
村:警察庁のまとめでは、2020年は7月以降自殺者が増加傾向にあり、10月の速報値は2,153人となっています。前年同月比で39.9%(614人)の増加です。
自殺者数は2010年から2019年まで10年連続で減少し、今年に入ってからも1~6月までは前年同月比マイナスで推移していましたが、7月以降は4か月連続で増加しています。1~10月の累計の自殺者数は1万7,219人で前年同期より160人も増えています。
男女別でみると、男性は前年比21.3%増の1,302人、女性が82.6%増の851人で女性の増え方が目立っています。新型コロナなどの影響も女性の方が大きく受けている可能性があります。都道府県別では東京の255人が最も多くなっています。
ただ、私たちの組織運営も新型コロナ感染拡大の影響を受けています。ボランティア参加者の感染リスクを避けるため、4月は1か月活動をお休みしました。その後は室内の換気や、衛生チェックなどさまざまな対策を取りましたが、相談室の密集を避ける必要もあって、ボランティアの参加者数を絞らざるを得ない状況です。
5月から夜間の電話相談時間を短縮し、月曜日は夜22時半から深夜の2時半まで、火曜日は夕方17時から深夜の2時半まで、水曜日から日曜日は夜20時から深夜の2時半までとしています。本年は例年の3分の2程度の相談数になるかもしれません。
――さしつかえない範囲で、どんな相談内容があるのか、ご紹介いただくことは可能でしょうか。
村 東京自殺防止センターへの新規の相談の多くは、厚生労働省の「まもろうよ こころ」のホームページのほか、ネットやツイッターなどで「自殺の方法」「自殺」などを検索して、私たちに相談してくるケースが多く、「死にたい」という相談が7割以上にのぼります。
いくつもの要因が重なって死にたいと思うようになります。いまのところ新型コロナが直接の原因だというものは少ないのですが、もともと「死にたかった」ところにコロナの要因が加わり、「さらに死にたい」という思いが強くなったという傾向はあるかもしれません。
新型コロナの感染がさらに広がり、長期化すれば、今後はボディーブローのように自殺願望は広がる可能性があります。
たとえば、テレワークが広がり、家族が四六時中一緒にいるようになり、悩みをもった主婦の負担が限界を超えるというケースもあります。また、働くことができず家に留まらざるを得ない人は、今までより家にいづらくなり「自分なんか生きている価値がない」という声も聞きます。コロナがひとつの引き金になるということは十分ありうることです。
ちなみに私どもへの電話相談では、孤立、心身の病気、人と接するのが苦手で働く場が探せない、といった相談が多いのですが、本来なら家族のつながりや職場や周囲の適切な対応があれば、ここまで本人を追い込むことはなかっただろうと思われるケースが増えています。
――日本は成熟社会でありながら、経済的に下降線をたどっており、家庭も会社も人間関係はぎくしゃくする一方です。ある種の社会的なクッションが必要だと思うのですが、東京自殺防止センターの役割もそのひとつですね。
村 わが国では、いわゆる「引きこもり」と呼ばれる方だけで100万人以上となり、うち40~60歳の「中高年のひきこもり」だけで約61万人もいるそうです。
「親が死んだらどうなってしまうのだろう。社会と全くつながりのない自分一人では生きていけないのではないか」と不安を訴える声も少なくありません。引きこもりの方は社会から切り離されて不安と焦りの中で毎日を過ごしている方が多いのではないでしょうか。親の世代の高齢化で、今後大きな社会問題になりそうです。
私は20年あまり、電話相談を受けていますが、振り返ると初めの頃はいろいろ反省すべき点もありました。いま、私たちは「死にたい」と電話をしてくる方に、「生きていればいいこともある」といった受け答えは絶対しないようにしています。
50代の女性で、「50年以上生きてきたが良いことは一つもなかった 」という話をされました。10代の子に「生きていれば、まだまだ良いことがあるはず」というのは許されるかもしれませんが、50代の方に「生きていれば良いこともある」というのは、本当にその方のつらい身の上に理解が及んでいないことを意味します。
私たちビフレンダー(相談員)の価値観で相談者に説得や説教をすることは意味がないばかりか相談者をさらに追い詰めることになりかねません。
――例年、3月や8月には子どもたちからの相談も増えるそうですね。
村 3月は春休み、8月は夏休みがあります。子どもたちにとっては新年度や休み明けなど環境が大きく変わる時期は大きなプレッシャーになります。それまで何とか頑張っていた心の糸が長い休み明けに振り切れてしまい、自殺する子が増えるのです。
今年は3月が新型コロナで学校が休校に入り、私たちも新型コロナで電話相談ができませんでした。新学期を孤独の中で迎え、急激な変化に心が追い付かなくなった子どもたちが増えたとも聞いています。
悩みを持っていても、誰にも悟られないように「平気な顔」で過ごしている子どもも大人も、大変多いのです。「死にたい」と誰かに話すのは簡単なことではありません。どんなに苦しくても周りに気づいてもらえず、一人で抜け出せない悩みを抱えてしまうことになりがちです。
いずれにしろ、自殺したいと思うほどのつらさや苦しみを抱えた方たちに、まずは安心して「死にたい」と自分のお気持ちを訴えることのできる場が必要なのです。私たちはそうした相談者の心の叫びを聞き、受け止め、感情に寄り添う役割を担わなければなりません。
――エバーグリーンの集いやコーヒーハウスの集まりもあるようですが。
村 「エバーグリーンの集い」は身近な人を自殺で失った皆さんが心の傷をいやす場となっています。自殺してから数年経っても気持ちを引きずっている遺族が大勢います。
遺族の方だけが分かる、深い悲しみや喪失感を共有する中で、少しでも心の傷がいやされることを願い、毎月最終日曜日の13時半から約3時間開催しています。予約なしで参加されても問題ありません。匿名で参加できます。
「コーヒーハウス」は人間関係に行き詰まりを感じている人々が互いに学びあっていただく場です。第2と第4火曜日の14時から16時は高田馬場で、第1と第3金曜日の18時半から20時半は目黒で開催してきたのですが、新型コロナの影響で、しばらくお休みしています。
――皆さんの活動はボランティアの方によって支えられているとのことですが、現在困っていられることがありましたら。
村 コロナ以前は、年間55名ほどのボランティアの方々が電話相談に参加してくれました。ところが新型コロナでテレワークが広がり、会社に出勤しない方も増えたため、現在は3分の2ほどの人員になっています。相談時間を短くするなど、ぎりぎりの人員で動いている現状です。
これまでは5月、10月、1月の年3回、新人のボランティアの募集とそれに伴う新人研修を行ってきたのですが、それも今年はできずにいます。この記事を読まれた方で、ボランティアに参加したい方がいましたら、ぜひお電話ください。
ボランティアスタッフとして20年間電話相談などの自殺防止活動に従事するかたわせ、民間団体等にてゲートキーパー研修、電話相談員の養成・継続研修などの講師を務める。東京自殺防止センターは年中無休で電話相談をしており、年間で11,000件を超える相談に応じている。相談内容は、相談内容は、自殺、自殺未遂など死にたい悩み。心身の病気、夫婦や家族などの家庭問題、仕事疲れや職場の人間関係、学校問題、死生観など多岐に及ぶ。
●認定NPO法人国際ビフレンダ―ズ [相談電話番号 03-5286ー9090]
村 明子さんも出版に関わった14歳の世渡り術シリーズ、『「死にたい」「消えたい」と思ったことがあるあなたへ』(河出書房新社編)。つらい、死にたい、もう消えてしまいたい……そんな気持ちを持つあなたへ。中学生向けに、作家、Youtuber、アーティスト、精神科医など、各界の25名がさまざまな言葉を届けています。
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