女子児童にも“学びの場と機会”を
国境なき子どもたち(KnK)のパキスタン写真展から認定NPO法人国境なき子どもたち(KnK)の職員であり、写真家でもある清水匡さんが支援で訪れたパキスタン山間地で撮りためた写真約60点を集め、「未来を切り拓く山奥の少女たち」と題した写真展を開催した。9月14日に清水さんを囲んで行われた、ギャラりートークの模様をお届けしよう。[2024年9月29日公開]
【ギャラりートーク】“学び”を伸ばして、未来を切りひらけ!
渡辺:KnKの活動に参加している渡辺です。今日は司会を兼ねて参加させていただきます。KnKは国境なき医師団から派生したNPO団体ですが、清水 匡さんは国境なき医師団の職員を経て、2003年から国境なき子どもたち(KnK)に勤務し、広報、プロジェクト調整、組織運営を担うかたわら、人道写真家として活動してきました。
清水:今回のパキスタンの写真展のテーマは「女子の教育」がテーマです。お二人とざっくばらんなトークを期待しています。
渡辺:尾立さんは東京都の出身で、大学で社会福祉学を学ばれました。在外大使館や国際協力NGOなどの勤務を経て、2006年から2007年にKnKの活動にも参加。パキスタン北西部のハイバル・パフトゥンハー州に派遣され、大地震に遭遇した現地の青少年支援に従事しました。カンボジアやヨルダンの支援活動にも関わっています。現在は宇都宮大学大学院後期博士課程で「性的搾取虐待からの保護」の研究に携わっています。
尾立:2005年のパキスタン北部地震のあとにKnKのパキスタン支援活動に関わりました。現在はNGOでも仕事をしながら、ジェンダーの研究を行っています。
渡辺:今回のギャラリートークは尾立さんを含む私たち3名のトークですが、清水さんにはどんな思いがありますか。
農村部における女子教育の障害は、家事労働
清水:パキスタンは約2億4,000万人 (2023年国勢調査)の国ですが、イスラム教徒が多い国の1つです。文化的に女子の教育にはさまざまな制約があります。私たちの中にもジェンダーの問題を学ぼうという動きがあって、尾立さんに講師をお願いしたこともあり、本日のゲストとしての参加もお願いしました。
渡辺:ジェンダーというのはとてもセンシティブな問題です。世界的に見ると、地域差や民族差もあって、簡単な問題ではありません。KnKにとっても大事なテーマです。今回は写真を見ながらそんなお話もできたらと思います。まず、清水さんの写真ですが、素晴らしい風景で始まっています。
清水:カラコルム山脈に近いパキスタン北西部の山村は、2,000〜4,000メートル級の山に囲まれています。こんな不便な場所になぜ人が住むのかと思わせるほど、厳しい環境です。
渡辺:でも、清水さんの写真には子どもたちのまぶしい顔が並んでいます。
清水:KnKは2005年にパキスタンを襲った大地震やその後の大洪水の影響を受け、被害を受けた学校の再建・修復作業をやってきました。写真の中には修復前のものと修復後のものがあります。大地震から20年近く経過しましたが、再建・修復が進んでいない学校もあります。こうした活動を通じて気づいたのは、女子の学ぶ場所が極端に少ないということでした。
渡辺:日本では男女共学が当たり前ですが、それすらも確立できていないということですか。
尾立:私がパキスタンに行ったのは2005年の大地震の直後ということもあり、生活の維持だけでも大変な時期でした。山間地の保守的な地域ということもあり、どこまで皆さんが協力してくれるか心配でしたが、お母さん方がとても協力的でした。「女の子も勉強ができるように」と女子校の再建・修復に熱心に協力してくれました。
清水:小学校までは共学なんですが、日本でいう中学生くらいになると、男女で分かれ、女子が学べる学校が少ないのです。パキスタンは男女の役割への固定観念がいまだに根強い国の1つです。女子には幼いうちから家事や子守りなどの役割が課せられます。パキスタンの山岳地帯では、薪ひろい、水汲み、家畜の世話や農作業などの労働も女子が担っています。また、女性は早く結婚して子どもを産むことも求められます。18歳未満の 6人に1人が児童婚を強いられています。
渡辺:水汲みだけでも大変な労働ですよね。
清水:現地はガスや水道も通っていません。火を起こすために薪集めし、水汲みもしなければならないのです。
渡辺:就学の機会そのものに男女で大きな差が生じているわけですね。
尾立:私がお世話になった家でも家事は小さな女の子の役割になっていました。私が滞在することで女の子の仕事を増やしてしまったのではと恐縮しました。ただ、最近では家事を男女でシェアするというお話も聞いたことがあります。少しずつ変化も出ることを期待しているところです。
【コラム】サディアさん(5年生/10歳)のコメントから
朝、1時間かけて水を汲みに行くのが私の一日の始まりです。学校から帰ったら、また水を汲みに行って洗濯をします。
安全に楽しく学べる場所を1つでも多く
清水:校舎のないところでは青空教室もやっています。ただ、日差しが強いうえに、風でノートがめくれたり、地面に腰かけているだけでお尻も痛くなります。女性は年頃になると男性に見られることも気にします。青空教室では壁を設け、トイレの心配もしないといけません。中にはトイレのために家に帰って、戻ってこない子もいると聞いています。
渡辺:家庭訪問もするのですか。
清水:何軒も訪問しました。学校に来るだけで片道1時間とか掛かるのは普通だと聞きました。2018年の家庭訪問で、どんなことが不便か聞きました。その子のお父さんは、外で出稼ぎし、1週間だけ帰ってくるのだそうです。お父さんに会えないのがさみしいと語ってくれました。
渡辺:授業は日本と違いますか。
清水:理科の授業ではビーカを使った実験をしていました。日本と同じだと思いました。
渡辺:トロフィーの写真もありますね。
清水:子どもたちがスポーツ大会で優勝したときのものだと校長先生が言っていました。
渡辺:就学の機会そのものに男女で大きな差別が生じているわけですか。
清水:パキスタンの15歳以上の識字率は男性が69%、女性が47%です。南アジア諸国の中でも低位にあります。5歳から16歳の子どもの32%が学校に通うことができず、とりわけ農村部では37%の未就学となっています。教育におけるジェンダー格差は深刻です。世界146カ国の中でパキスタンは145位です。中等教育の就学率では124位となっています。
渡辺:2005年に発生した北部地震を受けて、KnKではどのような活動を……。
清水:被災した児童への教育支援を行ったほか、女性の経済的なエンパワメント向上を目指し、職業訓練を実施しました。手に技術を付けて、収入が得られるようにしました。2010年からはパキスタン政府の要請を受け、地震で被災した学校の再建に取り組みました。女子教育の向上のためにも校舎の再建や修復が求められています。
渡辺:また、住民からなるアドボカシーグループが生まれ、女子の中学校を開設するように行政に働きかける地域も出てきたと聞きました。
清水:生徒会の活発化、スピーチコンテストや発表会、スポーツ大会など女子生徒がモチベーションを高め、楽しく学べる環境づくりを進めています。
渡辺:写真の中にガールズサークルやガールズユースアンバサダーの活動を写したものもありましたね。これはどのようなものですか。
清水:ガールズサークルは、女子生徒が抱える問題について話し合う場を設けたものです。議論の習慣がなかった学校で、双方向のディスカッション、ロールプレイやインタビューを盛り込み、対話による関係性強化の効果が出ています。
ほかにも教育の重要性、子ども・女性の権利を学び、自分たちの立場を主張できるように促しています。また、スポーツやスピーチコンンテスト等のイベントを自主開催するなど意欲を高め、近隣に住む非就学児や中途退学した友人の家族に学校に通えるようかけあうなど、積極的な行動も見られます。
渡辺:ガールズユースアンバサダーの活動とはどのようなものでしょうか。
清水:都市部の女子大学と協力し、女子学生を「ガールズユースアンバサダー」に任命しています、大学生たちが村の学校を訪問し、女子生徒たちのサポートや指導を行っています。学生自身の経験から女子生徒たちの生の声をとりまとめ、女性教員の配置や児童婚に関する法律の施行など州レベルの政策提言セミナーにも出席しています。
尾立:子教育の環境整備に向けてガールズユースアンバサダーの皆さんが署名活動を行いました。最初の目標数は900でしたが、最終的に1,540の署名を集めたと聞きました。ジェンダーの視点で見ると、パキスタンも日本もつながっています。この署名は世界の女子に教育を届ける希望につながるものだと思います。
渡辺:こうして学んだ女子学生の皆さんは、将来についてどんな夢を描いているのでしょうか。
清水:教師や医師になりたいと語る生徒はすくなくありません。若い女性が職業として意識できるロールモデルが少ないため、ある程度仕方がないのですが、社会でリーダーシップをとれる人に成長してほしいと願っています。
【コラム】 トゥーバさん(15歳 10年生) のコメントから
「新しい校舎ができる前は、夏は暑く、冬はとても寒かったです。教室も狭く机や椅子も足りていませんでした。支援で新しく校舎が建てられると知ったときはすごくうれしかったです。
好きな教科は生物。ガールズグループに参加して積極的にコミュニケーションが取れるようになりました。そのほか経済問題や女性軽視についても学びました。将来は医者になりたいです。村の女性は病気になっても男性の医者には診てもらいたくないので我慢してしまいます。この村には女性の医者がいないので都市部まで行かないと受診ができないんです」
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