識者に聞く

環境保全団体WWFジャパン中間報告──①脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!(前半)

株式会社システム技術研究所所長 槌屋治紀さんに聞く

環境保全団体WWFジャパンが、このほど「2050年に2008年比でエネルギー需要を約半分に」する『脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオの中間報告〈省エネルギー〉』を発表した。省エネルギーによる資源浪費の少ない社会こそ、100%再生可能エネルギーに近づく早道だというのだ。研究を委託されたシステム技術研究所所長槌屋治紀さんの報告を聞こう。

「脱炭素社会、“決め手”は省エネルギー!」後半はコチラ↓ 
http://csr-magazine.com/2011/09/05/analysts-wwf2/

これまでの取り組みから

報告を行う槌屋治紀さん

私はWWFジャパンから依頼をされて過去に2回レポートを作成しています。1回目は1997年のCOP3京都会議(97年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議。先進国及び市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目的を定めた京都議定書が採択された)に向けて、2010年、2020年までにエネルギー消費をどのくらい減らせるか、CO2をどのくらい減らせるか、というテーマでした。 

ちょうどトヨタから出たハイブリッドカー(異なる2つ以上の動力源を持つ複合型自動車。日本ではガソリンエンジンと電気モータの組み合わせが一般的)が将来主流になるだろうと書きました。2010年には自動車の半分くらいは、ハイブリッドカーになるのではという計算をしました。半分にはなりませんでしたが、相当数がハイブリッドカーになっています。

2回目は2003年。もう一度同様のレポートの依頼を受けました。その頃にはエネルギー消費を将来小さくしようという研究がいろいろなところから出されていました。新しい技術のネタがあればそういうレポートを書きたいと思っていました。

ちょうど発光ダイオード(順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子。LEDとも呼ばれる)が登場し、これから伸びるということでした。2003年のレポートでは発光ダイオードがこれくらいまで広がるはずだと書きました。

私は3月11日の震災と原発事故を受けて、もう少し日本で本格的に再生可能エネルギーを利用するシミュレーションをしたいと思っていました。これをやるには太陽光、風力をダイナミックに扱わないと問題点がはっきりしないということで、一時間ごとに需要と供給をマッチングさせるシミュレータの開発に取り組みました。

将来に向けた省エネルギーシナリオを

将来のエネルギーシナリオを考える場合にいちばん大事なのはどれだけ需要を減らせるかということです。そこでまず、省エネルギーシナリオの研究をしようということになりました。

きょうの内容は最新の節電状況に始まって、WWFインターナショナルから出たグローバルなレポート(WWFが欧州の著名なエネルギーコンサルタント組織「エコフィス」と共同で行った研究。2050年までにすべてのエネルギーを自然エネルギーでまかなうことができるかどうかを検討し、2050年までに少なくても95%までは可能という結論に)のシナリオ研究、それと一般的には参照できるシナリオがあってそれと比べてこれくらい消費を小さくできるという形をとるので、BAU(Business As Usualの略。つまり「これまでどおりのビジネス(やり方)」)からもたらされるシナリオも紹介しています。

エネルギーの節減がどのくらい可能かということについては、民生部門〔家庭、業務、照明、断熱化、エアコンCOP(COPは冷暖房器具のエネルギー消費効率を示す成績係数)〕、産業部門(鉄鋼業、モータのインバータ制御など)、輸送部門(プラグインハイブリッド、電気自動車、燃料電池自動車、カーシェアリング、エコドライブ、TV会議、モーダルシフト)を見ます。最後にそれをまとめた省エネルギーシナリオの比較を出します。現在進めている2050年再生可能エネルギーの供給によるダイナミックなシミュレーションについては、のちほど説明することにします。

最近の節電状況と省エネルギーの取り組み

インターネットを通じて節電に関する情報を集めました。最近はさまざまな知恵や工夫で省エネが行われています。まず、LED電球の価格が急速に低下してオフィスや家庭でも利用されるようになってきました。天井照明の代わりに卓上のLED照明を使うとか、天井照明もLEDに取り替えるということが進んでいます。

電車や地下鉄でラッシュアワーをのぞく20%の間引き運転が行われています。

私はあまり不便を感じないのですが、みなさんはどうでしょうか。地下鉄の通路やオフィスでも間引き照明が行われていまして、何割ほど間引きしているのかを見ますと、半分以上間引きしている例があって、それでもワシントンの地下鉄よりは明るいという印象です。

それから自動車産業などは勤務体系の休日へのシフトを行っています。木・金を土・日にしたり、サマータイム(4時に終業)の実施でピークシフトを行っています。社会全体がピークシフトを行うと大規模な発電所や稼働率の低い発電施設を持たないで済みます。それで全体のコストは下がるはずです。

公共的な設備は必ず需要が集中します。高速道路しかり電話しかり、需要が集中しないような工夫を社会が持っていれば、常にピークを満たすような大規模な設備は持たなくてもよいことになります。

それからエアコンの代わりに扇風機を使うとか、すだれをつるすということも行われています。エアコンを扇風機にするだけで、電気料金は少なくても半分以下になります。こういうことが人々のライフスタイルにどれだけ浸透するかに掛かっています。

日本の照明は明るすぎると私は感じていますが、照明技術の専門家はそんなことはないと否定します。欧米と同じだというのですが、これは多分照明の基準が750ルクスに保たなければいけないということからきていると思われます。必要なところだけ局所照明すれば、10分の1以下の電力で目的が達成されるといわれています。照明の基準ももう少しフレキシブルなものにできると思います。こうしたことが今回多くの人に知られたということで、それはそれなりに重要なことではないかと思います。

トップへ
TOPへ戻る