「科学技術は環境(エコ)の基本」シリーズ

【第1回】東日本大震災と科学技術

~科学の目で今を選択することが、未来を変える~

福島県の現状、インフラ復旧から除染作業へ

福島市で建設コンサルタント・測量業のオフィスをかまえる渡辺さんは、震災直後からまさしくインフラの復旧事業そのものに取り組まれてきました。

渡辺:震災からを振り返ると、本当に行政からの要求に応えるので精いっぱいでしたね。生きるための飲み水の確保、下水道の復旧、有無を言わせない要求への対応に明け暮れた日々でした。それでも、私が住む福島市内では上水道は震災から3日ぐらい、市内全体でも1-2週間で多くが復旧しましたし、一番遅くて1-2ケ月ぐらいで復旧したんじゃないでしょうか。

東日本大震災で救われたのはダムが決壊しなかったことです。また上水道の管や送水管もほとんど損傷していませんでした。栗駒山が大きな被害を受けた2008年の岩手・宮城内陸地震では水道管がむき出しになり、排水そのものが出来なくなりました。建設業の立場から見ると、千年に1度の大地震で上水道管がこれぐらいの被害だったのは幸運だったともいえます。

被災地では震災復旧が遅れていると言われがちですが?

渡辺:あえて申し上げますが、例えば高速道路を100kmで走ることは無理でも60kmで使用することはできる、地震前と全く同じ100%の復旧は出来ていないし、出来るはずもない。でも、(福島県は浜通り、中通り、会津の3地域がありますが)福島市など中通りでいうと人間が最低限生きるためのインフラはほぼ100%復旧しました。僕らはこういう仕事をしていますし、子どもの頃の何もない時代も知っている、そういう観点から言うと、あれだけの震災にもかかわらず復旧は早かったという言い方も出来ると思います。

しかし今も震災復興・復旧事業で滅茶苦茶忙しい、何かと言えば除染ですよ。建物の屋根、駐車場、学校周辺、福島で建設関連の仕事といったら除染以外何もないといっても良いかもしれません。今年に入って、行政の公共事業予算もほぼ100%が除染のためでしょう。

渡辺敬藏氏:科学技術というと分かりにくいと思いがちだが「中学で学ぶ周期表が理解できれば、除染についての理解ができる。周期表は物質を構成する基本単位である元素を、それぞれの元素が持つ物理的性質や、化学的性質が似たものを並べてあり、物質について理解するのに大変役に立つものです。そのため化学だけでなく、物理学、生物学などの科学分野、工業分野でもちいられています。除染をしたからと言って放射能が無くなるわけではなく放射性物質の分離や、集めることができただけということを学ばなければならない」と語る。

地質調査を専門とされる長尾さんの会社はいわき市内にあります。沿岸部の状況は?

長尾:いわき市は福島県の沿岸部、浜通りと言われる地域です。他には相馬市や、東京電力 福島第一原子力発電所事故にともない大半が警戒・計画的避難区域に指定された双葉郡も浜通りです。中通りよりもいわき市の方が放射線量は低いですが、原発事故のダメージ、影響は大きい。何故かというと、いわき市の主要産業は水産業、海産物が出荷できないということは、直接的にいわき市の産業を疲弊させるからです。

インフラの整備といっても原子力発電所近くの地域ではやりようがありません。被災した道路も何もほったらかしです。ただ、避難地域以外では渡辺さんのお話のとおり、いわき市でも年が明けてから復興事業部門を新設して、海岸沿いの地盤沈下したところ、道路や橋を必死で普及しています。うちの会社も地質調査会社ですが、技術者の数が不足しており若い社員たちは働きづめです。

双葉郡など周辺12市町村からいわき市には23,000人が避難されています。現在の福島県の皆さんの生活状況はいかがでしょうか?

長尾:地域・年齢・家族構成によって状況は本当にさまざまですが、まず年配の皆さんは長年住んできた町や家から離れたくないという想いが強くあります。一方で、小さな子どもを持つ親は放射能から子どもを守りたい、父親だけ今までの職場に留まって、母子のみで避難されている家庭も多い。結果的に3世代のご家族は従来の生活が破たんせざるを得ません。こうした状況は沿岸部の浜通りに限ったことではなく、放射線量の多い福島市や郡山市など中通りでも同様のことが起きています。

またいわき市には避難地域から多くの避難者が移住され、「いわきニュータウン」には双葉郡楢葉町役場そのものが移転し、2,200人規模の仮設住宅もあります。急激な人口増加でゴミ問題など行政サービスの課題も新たに生まれようとしています。また、避難者の心の問題、補償金を手にされて当面の生活費があっても働く場所を失い、将来の予定も立ちにくいなか、朝からパチンコ屋へ、夕刻は飲み屋へと出かける被災・避難者も多くいます。地域全体での人心の乱れも懸念されます。

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