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第25回大使館員日本語スピーチコンテスト2022

日本に駐在する各国大使館員による日本語スピーチコンテストが開催。25回目となる今年は13カ国から13名が出場しました。ロシアによるウクライナ侵攻の影響か、常連であったロシアや中国は参加しておらず、世界の分断が気になるコンテストになりました。ただ、モルディブやマラウイなどの参加国もあり、新鮮な出会いによる感動がありました。5人の受賞者のスピーチをお届けします。(2022年11月13日公開)

日本語スピーチコンテスト参加者と審査員が一堂に

外務大臣賞

「日本語との出会い」

オーストラリア大使館 トム・ウィルソンさん

オーストラリアで最も学習されている外国語は日本語です。約40万人が学んでいます。田舎町で暮らしていた私は、13歳まで日本のことは知りませんでした。

日本語の授業が学校であり、そこで初めて日本語と日本の文化に触れました。ウェールズ州と東京都が姉妹都市であることから、交換留学制度があり18歳のとき、東京の高校で1年間勉強する機会がありました。それまでの3年間、日本語を学んでいましたが、最初の3カ月は周りが何を言っているのか全く分かりませんでした。

みんなが国語の授業を受けているとき、私だけマンツーマンで日本語を学びました。今村先生という国語の先生はいまも忘れられません。毎日、日本語の文法について教えてくれました。振り返ると本当に贅沢な時間でした。

難しいと思ったのは助詞の使い方です。「は」と「が」の使い分けは大変でした。日本人のように助詞を抜いて話したりもしていました。もう一つ難しいと思ったのは「敬語」です。相手に対する尊敬を言葉で表現するのは日本人らしい概念です。英語圏の人は誰も悩みます。

いまも間違って自分を上げたり、相手を下げたりする間違いを起こします。

効率の良い勉強法は友だちとの遊びでした。放課後にカラオケに行き、当時流行っていた歌を覚えることでした。知らない単語が出てくると辞書で調べ、ノートに書いていました。おかげで90年代の日本の曲なら全部知っています(笑い)。

今村先生によく言われたのは、「言葉はあくまでもコミュニケーションの道具。相手に伝わればOK」ということでした。間違った表現をしても日本人は大体理解してくれることが分かってからは、気軽に日本語を使うことができました。

もう25年前になりますが、お世話になったホストファミリーや今村先生、やさしくしてくれた友だちに感謝しています。コロナが終息すれば、大勢のオーストラリア人が日本語を学びに来ます。

外務大臣賞のトム・ウィルソンさん(右)と
外務省大臣官房文化交流・海外広報課長の津田陽子さん(左)

文部科学大臣賞

「ダルマから学んだこと」

フィリピン共和国大使館 ジャン・ケネス・ボランテさん

初めてダルマを見たとき、怖いと思いました。目がなく、顔も怒っているように見えたからです。ドラえもんやピカチュウに比べると可愛くありません。私の第一印象です。

ダルマは「七転び八起き」と言われます。失敗にもくじけず、幾度も奮起することで、願いをかなえてくれるのです。ダルマの本当の意味を知って、自分の人生についても考え直すことができました。

私もコロナ禍のなかで生きてきました。私が考える「希望・辛抱・覚悟」についてお話しします。

まず「希望」から。昨年、将棋の藤井聡太さんのニュースを見ました。相手はまだ2時間半の持ち時間があり、藤井さんは数分の持ち時間でしたが、逆転勝ちしました。最後まであきらめなければ、希望はあると思いました。

2つめは「辛抱」。3年前に来日したとき、日本語の会話ができませんでした。コロナ禍をきっかけに勉強をし直しました。私は10年前に国際交流基金の支援を受け、大阪で日本語の勉強会に参加したのですが、その後は日本語を使う機会がなく、日本語を忘れていました。働きながら勉強することがどんなに大変であっても、一歩一歩、地道な歩みを進める亀のように日本語の勉強を続け、ようやく会話ができるようになりました。

最後は「覚悟」。コロナ禍の被害は甚大なものです。毎日のように救急車のサイレンを聞き、緊急事態宣言も発出されました。医療関係者に支えていただいたことに感謝しています。パンデミックをきっかけに家族や友人の大切さを知った人は多いはずです。

私の母が6年前に亡くったときに感じたように、新型コロナウイルスの流行は、限られた時間のなかで、一度きりの人生を大切にしなければいけないという覚悟を持たせてくれました。「七転び八起き」。ダルマのようにどこからたたいても倒れず、「希望・辛抱・覚悟」の気持ちを忘れず、前進していきたいと思います。

文部科学大臣賞のジャン・ケネス・ボランテさん(右)と
文部科学省文化庁国語課長の圓入由美さん(左)

大使館親善交流協会理事長賞

「何かのご縁ですね」

リトアニア共和国大使館  オーレリウス・ジーカスさん

日本に着いて以来、会う方に「何かのご縁ですね」と言われます。西洋人の私はギリシア神話に出てくる運命の女神モイラに親しみを持っていました。

東洋の文化に欠かせない、ご縁とはどういうことでしょうか。25年前、高校生の私は外国語を勉強しました。母国のリトアニア語以外でロシア語や英語を学び、それからスペイン語を学びました。スペイン語で本が読めるようになると、もう少し難しい外国語はないかと思いました。

リトアニアの誰も勉強したことのない言葉はないかと母に打ち明け、これを機会に母も一緒に探ってくれました。独立直後のリトアニアの図書館には本が少なく、書店にも本はありません。

ある日、母が赤い表紙のぼろぼろの古本を手に入れました。

表紙には縦書きで『和露辞典』とありました。日本語とロシア語の辞典でした。

その日から不思議なご縁で、私の日本語の独学が始まりました。その後、日本への数年間の留学を経て、日本学の研究者としての仕事が始まり、世界初となる日本語とリトアニア語の辞書の編集へとつながりました。

いま、リトアニア駐日大使としてスピーチを行っている私は、25年前のあの瞬間と不思議なご縁で結ばれています。これは偶然でしょうか。あの日、手に入った本が、日本語でなかったとしたら、私の人生はどういう歩みになっていたでしょうか。

最近、名古屋で会った人から「偶然というのは必然のことです」と言われました。私たちが生きている世界は複雑なご縁でつながっています。この25年間を振り返るとギリシア神話の運命の女神のいたずらというよりも、人々が互いの関係や決断でご縁をつくっているということの方が腑に落ちます。駐日大使となって間もなく、私はこのことに気づきました。日々の仕事の中でめばえたご縁に感謝することが、新たなご縁につながると思っています。


審査委員特別賞-1

「はし」

ハンガリー大使館 バグディー・トーツ・マルセルさん

10年前、留学生として奈良県のホストファミリーのお世話になりました。そのとき聞いたのが一休さんのとんち話です。ある橋に、「この橋わたるべからず」との立札がありました。一休さんは端ではなく、真ん中を歩きました。このこじつけとも思える賢い話は私の記憶に深く刻み込まれています。

日本には多くの橋がありますが、ブダペストのドナウ川に架けられたエリザベート橋とよく似た形や色の橋が東京湾に架かるレインボーブリッジです。2つの橋の照明は日本人の照明デザイナー石井幹子さんが担いました。

私は最初の1年、関西に住んでいたので、関西のイントネーションを身に着けました。これから関西のアクセントで話してみます。

「奈良県三郷町に住んでいたとき、よう大阪に遊びに行きました。難波の戎橋にたどり着くと、ホストファミリーの兄弟と一緒に橋の真ん中に立って、グリコの広告に向かって決めポーズをしたものでした。」

そのとき浮かんだのは、橋は水や谷をまたぐものではなく、人と人をつなぐものだということ。

あいにく新型コロナウイルスによって多くの国との橋が深い谷に落ちてしまいました。ロックダウンや水際対策で、人と人、国と国の橋がなくなり、国際交流はあの有名な弁慶のように立ち往生してしまいました。コロナの制限は人類を隔てすぎたと思います。

外交官である我々は日本と国際社会のつながりの機会を再開し、重要な関係を再び結びつけるべきだと思います。いまは黒船の時代ではありません。お互いへの尊重と相互利益に基づいて、日本との扉を開きたいと思います。私は外交官としてハンガリーと日本との「橋」になると誓いました。


審査委員特別賞-2

「お互いから学びあう」

アメリカ合衆国大使館 ガーヴィー・マッキントッシュさん

日本に住んでいると楽しいことがたくさんあります。たとえば日本食は本当においしいです。納豆以外は……(笑い)。一番好きなのはしゃぶしゃぶとヤキトリのタレです。タルタルソースを付けた照り焼きとハイポールは最高に合います。ラーメンもおいしいです。

私はこだわりの味を求めて、休日は趣味のサイクリングを兼ねて横浜や川崎にも出かけます。日本の温泉も最高です。雪の中、露天風呂で飲む熱燗は最高です。

日本人はとても人なつこく、親切でよく話しかけられます。あるとき、池袋でラーメンを食べていたら、隣の男性から「どの野球チームの選手ですか」と声をかけられました。「私は野球選手ではありません」と答えると彼は少しがっかりしたようです。次は「やっぱりバスケットボールの選手ですか」と聞かれました。私はスポーツ選手ではなく、「ただのNASAの代表です」と答えると、「本当ですか」とさらにがっかりしたようでした。

私は黒人ですが、マイクロ・ジョーダンのようにバスケットは得意ではありません。また、マイケル・ジャクソンのように歌ったり、踊ったりもできません。私は照り焼きが大好きなただの外交官です(笑い)。

アメリカでは黒人が活躍しています。オバマ大統領だけでなく、NASA代表チャイルド・ボールデンも黒人です。

外国人も日本人にいろいろな先入観を持っています。日本人はいまも着物を着て下駄をはいているとか、ちょんまげを付けた侍のようだと思っている人もいます。しかし、いまは食べ物、生活、伝統文化にいろいろな選択肢があります。実際に日本に来て初めて知ることも一杯あります。それまで持っていた先入観よりも、はるかに興味深いものばかりです。

先入観から解放されて本当のすばらしさを知るには、その場所に行くのが一番です。人と会って、話して、知り合うことが必要です。日本の皆さんも世界に行って、たくさんの友達を日本に連れてきてください。

※受賞者のスピーチは、当日話された内容をもとに当編集部で要約したため、一部内容に変更があることをご理解ください。


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