環境

「損失と損害」の基金は決まるも、温室効果ガスの削減対策は道半ば

WWFジャパンのCOP27報告から

エジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)。2015年のパリ協定(COP21)以降に進めてきた、「1.5度目標」などの実現に向けた、より具体策の検討が期待されたものの、途上国、新興国、先進国の利害が交錯し、途上国が求めてきた「損失と損害」の救済基金でぎりぎりの合意が決まりました。WWFジャパンの現地報告をもとに、COP27を振り返ります。

COP27の全体会議(写真提供:WWFジャパンから)

パリ協定から7年、本気度が問われる気候変動への危機意識

COP27は、ホスト国が温暖化の影響に脆弱なアフリカ開催ということもあって、気候災害の「損失と損害」への対応が焦点となりました。しかし、海面上昇や浸水、干ばつの被害などで苦しむ途上国と先進国の利害は真っ向から対立、2週間の会期を2日延長してぎりぎりの交渉が続きました。

インドネシアの首都ジャカルタの海面上昇(11月21日のNHK報道番組
「キャッチ! 世界のトップニュース 特集海面上昇の脅威」から)。
インドネシアは首都の移転を決めています。

COP27で焦点となった「損失と損害」基金とは

パキスタンの大洪水などをはじめとして、2022年も世界各地で温暖化が深刻度を増し、洪水や干ばつによる被害が相次いでいます。その被害は、アフリカや中央アジア、小さな島国などの途上国にとりわけ大きなダメージを与えており、自力ではなすすべもない途上国が数多くあります。

これら途上国の多くはそもそも開発が進んでいないので、温室効果ガスをほぼ排出しておらず、温暖化に対する責任はほとんどありません。そのためパリ協定のもとで国際社会の公正な支援を求めてきました。

COP27では、会議の初日にホスト国であるエジプトが、パリ協定の議論の中から初めて「損失と損害」に対する資金支援についてCOP27の正式な議題として取り上げると発表しました。

実はパリ協定の8条に定められている「損失と損害」は、先進国からすれば気候変動で発生した被害に対する補償責任につながるため、できる限り専門的な知見の面の支援だけにとどめたいとしてきました。

そのため「損失と損害」に対する資金支援の話は、「すでにある基金で対応する」「2国間支援の枠組みの中で対応する」などとし、ほとんど進展が見られていませんでした。それが今回初めて正式に議論されることになりました。

議論は難航を極めました。途上国は「損失と損害」に特化した新たな資金支援組織(資金ファシリティと呼ばれている)の立ち上げを強く求めました。先進国側は、既存の人道支援や防災で何が足りないのか、まず分析して、そのうえでどのような資金支援が求められるのか、2年かけて議論するプロセスを立ち上げようと提案しました。つまり、具体的な資金支援組織の立ち上げか、何が必要かを議論するプロセスか、という2項対立で交渉は膠着しました。

最終日直前になって、欧州連合は動き、「もっとも脆弱な国々に対する損失と損害基金」の立ち上げを提案しました。これは大きな譲歩に見えますが、2つ条件がありました。1つは資金拠出のドナーは、これまでは主に先進国だけでしたが、それを広く拡大し、たとえば国際航空船舶税や化石燃料税などの革新的資金や、中国などの新興国も資金の出し手になるよう暗に促す内容です。

もう1つは、資金の受け手は脆弱な国々、たとえば小島嶼国連合や低開発途上国などに限る、というものです。この提案は小島嶼国や低開発途上国には歓迎されたものの、その他の途上国、特にボリビアや中国らの新興国グループやサウジアラビアなどのアラブ諸国グループは大反対しました。


「損失と損害」基金をCOP28で設立へ

会期延長の土曜日となってから出された議長の新テキストは、「損失と損害にフォーカスしたファンド(基金)を2023年のCOP28に設立する」というもの。ただしドナーは、先進国も含めて、既存の資金メカニズムや多国間・2国間組織、NGOから民間まで幅広く想定されています。しかし資金の受け手は、脆弱国に限らず、広く途上国対象となっていました。

「損失と損害」に特化したファンドを設立するまで譲歩した先進国側には受け入れがたく、再度交渉が行われ、日付をまたいだ翌日日曜日未明に、新たな議長テキストが提示されました。

その中では、資金の受け手は「途上国の中でも特に脆弱な国々」と言葉が変えられ、初めて「損失と損害」に対する資金支援のファンド立ち上げが決まりました。

パリ協定で決まられなかった「損失と損害」に対する資金支援のファンド立ち上げは、大きな一歩といっても過言ではありません。

実は、この「損失と損害」の新ファンド設立は、2030年に向けて新興国に対して温室効果ガス排出量削減目標の引き上げを迫りたい先進国にとっては、各国が決める目標値(NDC:Nationally Determined Contributions)の引き上げを要請するために必要な妥協という側面もありました。


化石燃料の削減対策で前進は見られず

7年前のパリ協定は、世界の気温上昇を産業革命以前と比較して「2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」と決定しました。

しかし、その後、各国から出された2030年を目標年とする温室効果ガス排出量削減目標値を実施しても、世界は2.1〜2.9℃の気温上昇を経験することになると予測されています。

COP27では、当初各国の野心的な温室効果ガス排出量削減目標の取り組みが期待されていましたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機もあって、石炭火力など化石燃料の段階的な削減などは盛り込まれませんでした。

なお、日本はCOP27でも「化石賞」の受賞国となりました。化石賞は、気候変動に取り組む世界130か国の1800を超えるNGOのネットーワーク「CANインターナショナル」が、その日の交渉において気候変動対策を後退させる言動を行った国に与える不名誉な賞です。


日本の受賞理由は、化石燃料に対する世界最大の公的資金拠出国であること。アメリカのNGO、オイル・チャンジ・インターナショナルが、各国が化石燃料への公的支援を調査する報告書を発表し、日本は世界で最も多く化石燃料に対する公的支援を拠出していることを明らかにしました。

日本が化石賞(写真提供:WWFジャパンから)

報告書によれば、日本が2019年から2021年のあいだに、拠出した化石燃料への公的支援は平均で年間約106億ドル(1兆5,900億円)、3年間の総額で318億ドル(4兆7,700億円)にのぼります。この金額は2位以下を大きく引き離し、世界最大となっています。

気候資金は、緩和にも適応にも増額が必要です。そのうえでCOP27では「損失と損害」への資金支援という新たな資金問題の解決が求められています。このような状況の中で、日本が巨額の公的資金を気候を守るためではなく、気候を壊すために使っていることに対して、世界の市民社会は厳しい判断を下しました。

化石賞の授与は、世界の市民社会からの日本への「期待」でもあります。誰のために、何のために資金を使うのか。責任ある先進国としての姿勢が問われています。

なお、COP27 に参加したWWFジャパン 環境・エネルギーディレクターの小西雅子さんは、『パリ協定で決めることのできなかった「損失と損害」に対する資金支援の話が進んだことは気候変動の交渉の中で大きな転換点です。日本の持つ気象関連など防災技術は大きく貢献でき、かつビジネスチャンスが広がることにもなります。日本国内でもこの途上国に対する「損失と損害」支援に強く関心が高まることを期待します』と語っています。

COP27 に参加したWWFジャパンの皆さん。
真ん中が小西雅子さん(写真提供:WWFジャパンから)

WWFは100カ国以上で活動している環境保全団体で、1961年にスイスで設立されました。人と自然が調和して生きられる未来をめざして、サステナブルな社会の実現を推し進めています。特に、失われつつある生物多様性の豊かさの回復や、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けた活動を行なっています。


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