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言葉でつながる草の根の国際交流
各国大使館員日本語スピーチコンテスト2024今年で27回目を迎える各国大使館員日本語スピーチコンテスト。各国の外交官や大使館員が日本語によるスピーチを行い、日本語と日本文化に対する造詣を披露しました。コロナ禍を経て、海外からのインバウンド客も増え、海外のお客様と触れる機会は着実に増えていますが、彼らが日本に何を期待しているのか、その理解につなげるまたとない機会です。15名の参加者の中から受賞した5名のスピーチを紹介します。[2024年11月11日公開]
外務大臣賞「逆境を乗り越える力」
中華人民共和国大使館 黄 宇宏(コウ・ウコウ)
私の地元の話です。ある小学生が大好きな母親の誕生日に真珠のピアスを贈ろうと考え、英語暗誦コンテストに応募しました。彼は英語に一度も触れたことがありませんでしたが、なんと優勝したのです。コンテストのルールは、教科書の文章を暗誦するというものでしたが、参加者の多くは英語塾に通う達人ばかりです。単語もろくに読めない少年は、教材の音声をすりきれるほど聞きました。文章の意味を全く理解していなかったのですが、歌のメロディーを覚えるように丸暗記したそうです。英語を学んでなかった経験がかえって有利に働き、発音やリズムに悪い癖がなく、感情表現もすばらしかったそうです。授賞式で英語を話せないことがバレ、一時話題にもなりました。それから16年が経ち、その少年はいま日本語のスピーチコンテストの舞台で、「逆境を乗り越える力」というタイトルでちょっと自慢気にその話を語っています。
私が最初に乗り越えた逆境の体験談です。私はこの体験を通じて人生には楽なことばかりではなく、逆境、ありがたい逆境もあることを学びました。
哲学者のニーチェは「あなたを殺さないものはあなたを強くする」と語りました。私はその後の人生で苦しいことにぶつかったとき、私を成長させるための逆境であると考えるようにしています。皆さんも私が想像できないような逆境を乗り越えてきたかもしれません。同時に世界中の国々でも、国民一人ひとりが結束して、大きな逆境を乗り越えてきました。日本と中国のような悠久の歴史を持つ国は数千年にわたり、逆境を乗り越える意思が受け継がれ、何度も這い上がってきました。戦後間もないころの中国は非常に貧しく、砂糖すら贅沢品でした。その後75年の努力を重ね、一人当たりの可処分所得は実質77倍も増加し、世界経済に対する貢献度も世界トップになりました。いまでは毎年1.4億人が海外旅行に出かけるほどです。
日本も戦後ゼロからスタートし、国民が知恵と力を合わせ、奇跡の経済復興を果たしました。このように共に逆境に強い日本と中国は、いまはいろいろな困難を抱えています。いま中国に好感を持っている日本人でわずか1割です。中国でも4割ほどが好感を持っていないという結果です。私の周りでもこれを心配する声はたくさんあります。私自身は中日友好はそんなに簡単に覆せないと思っています。2000年もの両国の友好の歴史があるからです。逆境はチャンスでもあります。お互いへの非難は以前よりも多くなりましたが、いまは相互の理解を進めるチャンスではないでしょうか。
逆境を逆手にとって相手を理解しようという空気も高まっています。両国関係の強い底力で「雨降って地固まる」、つまり両国の関係を花咲かせるときが来ると信じています。
文部科学大臣賞「アニメのアニマ」
トルコ共和国大使館 アルパン・ヤキヤ・オズリック
「アニメのアニマ」というタイトルは、「アニメのマニア」と読み間違っているのではありません。「アニマ」にはラテン語で「魂」という意味があります。漫画やゲームなど日本のソフトプロダクツのアニメには、魂がこもっていて、われわれ日本語をもっと分かりたいと思う人間にとって、道しるべとなっているのです。
私は1997年から2001年の間、日本に住んでいました。そのころは小学生でしたが、漫画やゲームに夢中でした。それで部屋を片付けるのを忘れたり、ゴミを出すのを忘れ、父と母によく怒られたりもしました。それでも日本の漫画やゲームを見て、読んで、遊びながら、日本語を忘れずこれたと思っています。トルコに戻ってからもこれを続けていました。
外交官として日本に来たのは2023年です。こちらに来ると、いままで見たアニメのキャッチフレーズや使われている用語が仕事にも役に立ちました。ご存じのアニメ『ワンピース』、そこには海軍など軍関係の用語も良く出てきます。いま私は防衛部で働いている関係もあり、情報機関、海軍で使われている用語が、仕事にも役立ちました。魂が私に伝わったということです。
そのあと、私が気づいたのはこうやって日本を好きになっているのは私だけではないということです。私の同僚でも『ワンピース』や『進撃の巨人』『名探偵コナン』を見て、日本語を学んでいる人が多いということです。『名探偵コナン』を見て関西弁すら分かる同僚もいます。私が日本に来てからいろいろな友だちが来日しました。皆さんを秋葉原や池袋などアニメグッズを買える場所によく連れていきました。
これらのアニメはただ楽しいだけでなく、日本の文化を伝えるために大切なものだということです。
われわれ外交官はいろいろな国に派遣されて、働きますが、私が皆さんに伝えたいのは、これからもアニメや漫画やゲームを見て、ときどき家族に怒られて、日本語とその魂を忘れずに、アニマを忘れずに、日本語に熱中して、日本の文化の1つひとつを忘れないようにしたいと思っています。
八木通商賞「裸のつきあい」
アメリカ合衆国大使館 アダム・マーレ―
きょうは初めて義理の父と会ったときの話をしたいと思います。私の妻は日本人で出身は北海道です。17年前、初めて北海道に行ったとき、妻とはまだ結婚していませんでした。義理の両親となる人はそのときはまだ英語があまり話せませんでした。私も日本語が話せませんでした。義理の両親は私を温泉に連れて行ってくれましたが、共同浴場に私は慣れていませんでした。義理の父をまねて、温泉の入り方を学びました。脱衣室からお風呂までを歩く間、私は腰にタオルを巻いていました。義理の父はその姿を見て、英語で「ノー」と言いました。私はギプアップしました。私はすっ裸になって父のうしろに続きました。
家に帰って父は日本酒の飲み方を教えてくれました。彼は日本酒に詳しく、1升瓶が何本か並んでいました。自分がほろ酔いになっていくのに気づきました。次の日、私は頭痛がしました。酒を飲みすぎたことを義理の母に話したとき、彼女は笑顔で、義理の父も飲みすぎたと言っていたと語りました。私はお酒を断ると失礼になると思って飲みすぎました。義理の父もお酒を勧めないと失礼になると思って勧めました。今でもそのときのことを懐かしく思い出します。私はこのことを通じて、これこそが心が通える道だと学びました。皆さんも外交官としてこのような経験があると思います。
裸のつきあいという表現があります。これは正直で誠実な関係を意味します。この関係は、義理の父と私の初めての出会いをよく表しています。でも英語に訳すると「naked companionship―」 ととても変な言葉になります。
言葉を学ぶときは、単語や文法だけでなく、社会的な背景と文化の理解も必要だということの教訓です。AIのような新しい技術は、外国語での交流を容易にしてくれるかもしれませんが、人と人のつながりを変えることはできません。ですから外交官としての私たちの役割は不可欠なのです。今日、世界が直面している課題は、グローバルの協力を必要としています。私たちは同じ言語で話せませんが、一緒に働くことでその任務を果たす力があると思います。
敢闘賞「直江津捕虜収容所が残したもの」
オーストラリア大使館 クリストファ・ジョンソン
8月、私は新潟にある直江津捕虜収容所の跡地に行きました。そこでは1942年から1945年の間に若いオーストラリア兵士60人が亡くなりました。直江津は戦争のもっとも辛い面を思い出させる場所です。収容されたときのショックと屈辱、だれもが困窮していること、捕らえる人と捕らえられる人の苦しみです。
オーストラリアの兵士たちは日本の看守にとってどんなに奇妙に見えたでしょう。
その逆も同じです。イラクやアフガニスタンのような場所で敵を人間として見ることはいかに簡単ではないかを私は見てきました。一度放された戦争という生き物を避けるのは難しいと思います。
60人の若いオーストラリア人は直江津から出られませんでした。地元の人は彼らの遺灰を受け入れようとはしませんでした。しかし、周りの努力もあって、覚真寺の住職、藤戸円理さんが「死んだ者に国境はない」と本堂の一角に丁寧に埋葬してくれました。死者に敵も味方もありません。今、私たちは欧州、中東、アフリカ、アジアで再び戦争の恐怖が高まっているのを目の当たりにしています。いまでは藤戸住職と同じやさしい心を持って、勇気をもってこの危機に立ち向かいます。
直江津は私たちに常に誠実さと勇気をもって行動し、人生の喜びと美しさを受け入れるよう語り掛けています。そのチャンスすらなかった人に対して、責任があるからです。生きている私たちの勇気、奉仕、人間性を示すことが、亡くなった彼らに敬意を示す一番の方法です。たとえ歴史が暴力によって汚されたとしても、国同士の和解と友好によって平和への道筋を見出さなければなりません。それこそが直江津捕虜収容所が残した教訓なのです。
審査委員特別賞「日本の民話を通じて知る真の日本」
インド大使館 アマン・アカシュ
去年11月、日本に着たばかりの私は本当の日本を知りたいと思いました。でも、歴史の本を読んだり、アニメを見たりするだけで理解が深まるというわけではありません。
歴史の本は、為政者と大きな町のことしか分からないようになっています。アニメも現実とかけ離れたフイクションです。そこで私は日本の民話を読むことにしました。簡単にいうと、民話は昔話のようなものです。私が思ったとおり役に立ちました。『うばすて山』や『牛鬼淵(うしおにぶち』の話によると、おじいさんやおばあさんは知恵をもった人として、日本社会で重要な役割を果たしてきました。アニメの若者と反対だと気が付きました。
鎌倉の長谷寺で小さな地蔵をたくさん見ましたが、意味は分かりませんでした。『東風地蔵』の民話を読んで以来、分かるようになりました。それは亡くなった子どもたちが無事に天国への道を見つけてほしいという人々の願いの話です。『耳なし芳一』の民話は、日本の平氏と源氏の歴史を教えてくれました。平氏の「赤」と源氏の「白」は今も日本で使われています。日本の国旗やスポーツのチームの色分けでも使われています。『黒姫伝説』で、日本人は川と池を竜と人間の境目として扱うことが分かりました。このことは宮崎駿さんの『千と千尋の神隠し』でも見たことがあります。だから日本人は昔から謙虚さを守ってきたのだと思います。
最大の民話は『浦島太郎』です。面白いと思うと同時に混乱しました。主人公はいい人だったのに、最後に苦しむのはなぜかと思いました。意味を調べるとシンプルな生活を送ることが必要だと教えてくれました。そのため日本は貧富の差はそれほど大きくありません。民話を読めば読むほど、本当の日本のことが分かると思いました。皆さん、日本の民話を楽しみながら読んでください。
※受賞者のスピーチは、当日話された内容をもとに当編集部で要約しています。ご理解ください。
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