CSRフラッシュ
化石燃料からの転換を急げ!
WWFジャパンのCOP28報告から脱炭素化への取り組みを決めたパリ協定から8年。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が開催された。産業革命以前に比べ気温上昇を1.5度に抑えるという目標達成が危ういものとなっているだけに、どこまで有効な合意ができたのか、この会議に参加したWWFジャパン気候グループからの報告を掲載したい。(2023年12月30日公開)
ぎりぎりで合意された化石燃料からの転換
COP28は初日に、長年の課題であった気候変動による「損失と損害」を救済していく基金の運用化に合意し、幸先の良いスタートを切りました。しかし、その後の交渉は難航し、会期を延長してようやく最終合意にたどり着きました。「化石燃料の段階的廃止」という言葉は入らなかったものの、2050年までにネットゼロ(CO2排出量の実質ゼロ化)を達成するため、石油、天然ガス、石炭などの化石燃料に依存するエネルギーシステムを転換していくとしています。
中東の産油国で開催されたCOP28だけに、当初は温暖化の最大要因となる化石燃料の廃止にどこまで踏み込めるのかに懸念はありましたが、交渉は難航したものの化石燃料を名指して、エネルギーシステムの転換を図ることで合意しました。
「2050年までにネットゼロを達成するため、公正で秩序だって衡平な方法で、エネルギーシステムにおいて化石燃料を転換していく、この重要な10年にその行動を加速させる」と回りくどい表現ながら、2050年までに脱化石燃料を実現し、気温上昇を1.5度に抑えるため、今後10年間に行動を加速させる、という内容です。
実は合意に至るまでに2回の議長案が出されました。当初案では「化石燃料の段階的廃止」という明確な表現が入っていましたが、2回目の案では各国が化石燃料の消費と生産を削減することを含めて自由に選べるような文言になっていました。
この文案に欧州連合をはじめ、小島嶼国連合や先進的なラテンアメリカ諸国連合が反発し、小島嶼国の代表は「これでは死刑執行書だ」と涙ながらに訴えました。夜を徹して交渉が行われ、会期が延長された翌日の朝に出てきた、「2050年までに化石燃料から転換していく」で合意しました。
化石燃料を名指ししての削減合意は、歴史的転換点と言っても過言ではありません。
今回の合意では、太陽光や風力といった再生エネルギーを2030年までに現状の3倍に拡大させるとともに、エネルギー効率改善を倍増させることも明記されました。
2025年に提出する国別貢献目標(NDC)への期待
パリ協定が策定された2015年、当時の各国の取り組み状況では、「世界の気温上昇を1.5度に抑える」という目標に届かないと危惧されていました。このため、5年ごとに世界の取り組みの進捗を評価するとともに、それを踏まえて各国の削減目標などの取り組みを5年ごとに提出させる、という2つの5年サイクルを設けていました。
前者の「5年ごとの世界全体での取り組み進捗評価」は、「グローバル・ストックテイク」と呼ばれ、COP28で最初の結論を出すことになっていました。
前述した「化石燃料の段階的廃止」もこの文脈で議論されたのですが、グローバル・ストックテイクの結論を出すには、もう1つ大事な個所がありました。
それが各国の削減目標(2025年が提出期限)に向けたメッセージです。WWFが重視していたポイントとして以下の2つがあります。
1つは、2023年4月に発表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書(AR6)で示された、世界全体で必要な削減水準がしっかり書き込まれること。特に、気温上昇を1.5度に抑えるためには、「2035年までにGHG(温室効果ガス)排出量を2019年比で60%削減が必要」という点です。
もう1つは、その知見を各国がそれぞれの次の削減目標にしっかりと反映させるため、なるべく強い表現が盛り込まれること。パリ協定における各国の削減目標は、NDC(国ごとに決定する貢献)と呼ばれる文書に書き込んで提出することになっており、各国で決めることになっています。特定の目標水準を各国に強制することはできませんが、それぞれの国が上記の「必要な削減水準」をしっかりと考慮し、どれだけ強く言えるかが問われていました。
交渉の中盤から、「過去の決定以上に強い表現を」は案からもれてしまい、新しい決定にはなりませんでしたが、それでも、2035年に世界全体で必要な60%の削減水準への言及は入り、かつ各国の次回の削減目標を含むNDC提出時に、グローバル・ストックテイクの結果をどのように考慮したかの説明が必要となります。合意文書の片隅に見られる小さな文言ですが、各国にとって大事な一歩となりました。
カーボンマーケットの国際基準づくりに向けた動き
パリ協定6条は、いわゆる国際的なカーボンマーケットのルールを決める条項です。6条2項は二国間などの分散型のカーボン取引、6条4項は京都議定書時代のクリーン開発メカニズム(CDM)の跡を継ぐもので国連主導型のカーボンメカニズム、6条8項は非市場型のメカニズムのルールをそれぞれ決める基準です。
COP28で注目されたのは、6条4項の大気中から温室効果ガスを除去する、いわゆる除去クレジットの取り扱いです。6条4項の監督委員会が一年をかけて検討した結果が提案されました。しかし、結論からいうと、6条2項、4項、8項のすべてにおいて結論は先送りされました。
クレジット取引は民間市場が先行していますが、6条のルールづくりの議論は、民間市場においても何をもって「品質の良いクレジット」となるかを理解するのに役立ちます。
6条の合意が延期されていく理由の1つに、国際的にクレジットによるオフセットに対する忌避感があげられます。まずは2030年に向けた短期目標では、クレジットによるオフセットに頼らず、自らの力でCO2排出量を半減させていくという行動が求められます。
気候変動の影響に対応する2つの新たな合意
COP28の序盤における最大のサプライズは、気候変動の影響による「損失と損害」を防ぎ、脆弱な途上国を支援・救済するための基金運用で合意が成立したことでした。
「損失と損害」基金の設立そのものは、前年に行われたCOP27の成果の1つでした。COP28ではそれを運用していくための詳細事項の合意が期待されていました。基金をだれが拠出するのか、その基金をどの機関が管理するのか、交渉は難航することが予想されましたが、会議初日に合意が成立し、おかげで他の重要議題の議論に集中できる余地が生まれました。
議長国のUAEやドイツが、それぞれ1億ドルという巨額の金額拠出を表明(日本は1000万ドル=約14億8000万円を表明)したことを踏まえると、おそらく会期前から活発な政治的駆け引きがあったものと思われます。最も大きな被害を受ける人々への支援に向けて、貴重な一歩となりました。
今回のCOP28では、もう1つ決めなければならなかった議題がありました。気候変動からの悪影響を抑える、「適応のグローバル目標に関する枠組み(フレームワーク)」づくりです。
適応とは、気候変動の原因であるCO2排出量を減らす「緩和」対策に対し、気候変動の影響を抑えていくための対策です。気温上昇や降雨量増加、干ばつなどを見込んだ災害・防災計画から感染症拡大防止対策、農業における作付時期変更や高温耐性の強いものを育てることなど、幅広い「適応」対策が存在します。
ただ「適応」対策は、注目度という点でCO2排出削減などの「緩和」対策に比べると関心が劣る傾向にあります。顕在化している気候変動の影響を前に、新たな目標を設定し、各国が協働して取り組む体制を整備することで、取り組みをさらに強化していこうというのが「適応のグローバル目標に関する枠組み」なのです。
この議題では、目標の設定方法をめぐって意見の食い違いがあったほか、資金支援の項目を入れたかった途上国とそれを警戒した先進国の間で対立が生じました。
議論がもつれた結果、最終日に成立した適応の「枠組み」では、それでも水資源・水災害、食料・農業、健康、生態系・生物多様性、インフラ、貧困、遺産保護などの分野別で2030年までの目標を設定しました。また、適当対策の段階ごと(脆弱性の評価から始まって計画・実行・モニタリングまで)の2030年目標も設定しました。今後の2年間でこれらの目標をどのように計測していくかを検討する作業計画の発足も決まりました。
しかし、「適応」対策に向けた資金支援については呼びかけにとどまり、途上国から不満の声も聞こえました。
非国家アクターに求められる大きな役割
交渉の外では、昨年をはるかに超える企業、自治体、大学や研究機関、若者団体、先住民族、NPO/NGOなど、いわゆる「非国家アクター」とよばれる組織や団体が存在感を発揮しました。
これら非国家アクターには、グローバル・ストックテイクを踏まえ、各国がこれから策定する次期NDCをより高い目標に導くとともに、政府間交渉にポジティブな影響を与える役割があります。
COP28では、議長国による公式プログラムとして、初めて地域気候行動サミットが開催されました。自治体の首長をはじめとする都市や地域のリーダーたちを招いて行われたこのサミットは、各国の取り組みを加速するために欠かせない地域との連携、地域が果たせる役割をリーダーたちが議論する場となりました。
立上げが発表された「高い野心のマルチレベルパートナーシップ連合(CHAMP)」には、日本を含む63か国が賛同し、次期NDCの策定を各国の都市や地域の知見を取り入れながら進めていくこととしました。2025年に向けて、各国がいかに実行に移し、地域とともに高い野心を生みだせるかが問われています。
12月5日には、日本の非国家アクターのネットワーク「気候変動イニシアティブ」に参加する186の企業や自治体、団体が政府に対しカーボンプライシング政策の改善を求める提言書を発表しました。これら企業や自治体などの非国家アクターには、自らの削減の取り組みに加え、それを実現するサポートや変容を求め、政府や業界団体をも説得していくリーダーシップが問われています。
日本はどう受け止め、どう進むべきか
COP28では、化石燃料からの転換が国際社会の総意として確認されました。日本としてもそれに応じた、国内対策および海外への支援対策を実施していかなければなりません。国内でのカーボンプライシングをはじめとした実効的な脱炭素対策に加え、海外支援においてもアンモニア発電のような石炭火力延命策ではない、地道な再エネ・省エネへの取り組みに重点をシフトしていくべきです。
また、今回のグローバル・ストックテイクの動きを受けて、日本としてもそれを踏まえた次の削減目標を準備しなければなりません。2035年60%(2019年比)削減を最低基準とした目標の達成に向けて、早期に国内の検討を始めてほしいと願っています。
WWFジャパン気候グループメンバーから
小西 雅子さん
温暖化の最大要因として化石燃料を正面からとらえ、2050年ネットゼロの達成に向けて化石燃料から再エネなどへ転換していくことに200か国が参加するパリ協定において合意したことは、歴史的転換点と言っても過言ではないと思います。もちろんもっと明確に化石燃料廃止を明示した方がベターでしたが、それでも2015年にパリ協定が大変な交渉の末に成立した時には、とても脱化石燃料を合意できる日が来るとは想像できなかったので隔世の感があります。化石燃料ではなく再エネこそが主流エネルギー、それが世界の総意です!
山岸 尚之さん
今回のCOPは、化石燃料から脱却していく方向性を明確に示したという点では大きな転換点と言えます。しかし、それは実施されてこそ。これからは、今回の結果を踏まえて、日本国内でも対策の強化(カーボンプライシングの強化)や野心的な次の削減目標(2035年60%削減を最低水準)の準備が必要です。そして、その準備は今から始めなければいけません。
田中 健さん
この2週間、本当に世界中の多様な人々がそれぞれの立場で数々のメッセージを発信していました。交渉に影響を及ぼそうとする非国家アクターの勢いは、ますます濃密になったように感じます。まだまだ主流とは言えませんが、企業や自治体が必要な政策や規制を政府に求めたり、業界団体にポジティブな変容を求める行動は、これからますます評価されるものと思われます。2025年に提出される次期NDCの策定に向けて、日本でもより多くの非国家アクターが積極的に声をあげていくことを期待しています。
WWFは100カ国以上で活動している環境保全団体で、1961年にスイスで設立されました。人と自然が調和して生きられる未来をめざして、サステナブルな社会の実現を推し進めています。特に、失われつつある生物多様性の豊かさの回復や、地球温暖化防止のための脱炭素社会の実現に向けた活動を行なっています。
※この記事は、COP28に参加した国際NGOのWWFジャパン気候グループの報告を当編集部で抜粋し要約しました。COP28の詳細な報告はWWFジャパンのホームページをご覧ください。https://www.wwf.or.jp/activities/activity/5497.html
<関連記事>
●ネットゼロ達成のパートナーにシンガポールの脱炭素ベンダー
●「損失と損害」の基金は決まるも、温室効果ガスの削減対策は道半ば
●COP25に“未来への叫び”は届いたか
●相違点よりも類似点~第24回大使館員日本語スピーチコンテスト2021
●がん患者と家族を支援する「リレー・フォー・ライフ」に日本トリムが協賛
●世界食料デーにあわせて「おにぎりアクション2022」開催
●国境なき子どもたち(KnK)発足25周年ワークショップ
●生活困窮世帯の保護者1,902名へのアンケートから
●ドールの『バナナエシカルバリューチェーンプログラム』が始動
●カーボンオフセットで途上国の森は守れるのか
[MK1]記事のURLを追記させていただきました。