CSRフラッシュ
何が決まり、何が先送りされたのか
COP30に参加したWWFジャパンの報告からCSRフラッシュ
産業革命前の平均気温から上昇幅を1.5度以内に抑えるとした「パリ協定(COP21)」から9年の歳月が流れました。その後の気候変動対策にどのような前進が見られたのか、先頃閉幕した国連の気候変動会議 (COP30)に参加したWWFジャパンの報告から読み解いてみました。

地球と私たちは、もう後戻りできない
“ティッピング・ポイント(転換点)”に近づいている
2024年は地球の平均気温が産業革命前に比べ、年間を通じて初めて1.5度を突破しました。日本を含む世界各地で洪水や熱波、サンゴの白化や干ばつ、森林火災などが多発しています。
COP30は、「パリ協定」から10周年の節目ということもあって、世界の国々が合意した「パリ協定」の実効性が試された会議といってよいでしょう。熱帯林が広がるアマゾン流域の河口部に近い、ブラジル北部の都市ベレンで開催されたことにも大きな意義が感じられます。
しかし、会期を延長して採択された合意文書を見る限り手放しでは喜べません。異常気象の被害軽減など「適応」に対する合意により、途上国の適応に対する資金を2035年までに3倍に増やす方針や各国の適応状況を評価する「世界共通の物差し」にあたる指標などは盛り込まれたものの、温室効果ガスの削減を意味する「緩和」では、排出削減を強化するという言葉にとどまりました。このままでは今世紀の世界の平均気温の上昇幅は、1.5度をはるかに超え、2.3〜2.5度となると憂慮されています。
また、参加200国のうち80カ国以上が求めた化石燃料からの脱却に向けた「ロードマップ(工程表)」の策定は産油国などの抵抗で合意文章に盛り込まれず、当初案にあった「化石燃料」という文字自体も削除されました。「脱化石燃料」に大きく舵を切るという意味では、不満の残る会議となりました。
以下、WWFジャパンが会議前に掲げた4つの注目点に沿って、この会議を振り返ってみましょう。
注目点1:2035年の各国の削減目標をどの程度積み上げることができるか?
パリ協定には、各国が自主的に決める温室効果ガスの排出削減目標(NDC)を段階的に引き上げていく仕組みが設けられています。5年という期間ごとに新たな排出削減目標を掲げ、次の目標値は以前の目標値を上回ることが義務づけられています。

〔COP30では〕
2035年の削減目標に関係する新たな排出削減目標の提出期限は2025年2月となっていました。ところが、9月末までに排出削減目標を提出したのは64カ国と締約国の3分の1にとどまり、COP30が終盤を迎えた11月 19日に119カ国に、閉幕後の12月4日に121カ国となりました。この時点で76カ国が未提出となっています。
国連は11月10日に削減目標に関する統合報告書を更新。増加し続けてきた世界の温室効果ガスの排出量が初めて減少に転じたと発表しました。
ただし、パリ協定がめざす1.5度目標を達成するには、2035年までに2019年比で温室効果ガスの排出量の60%削減が必要とされ、現状のままでは2035年の排出量は2019年比で12%減にとどまるとされています。
すでに1.5度目標を超えるオーバーシュートは避けられない状況となっていますが、
パリ協定がなければ2035年に20〜48%の大幅な温室効果ガスの増加が予想されただけに、2019年比で12%の削減に転じたという意義は認められてよいと思います。今後はオーバーシュートの規模と期間を可能な限り小さくし、大気中からの炭素除去技術などの実現をめざさなければなりません。
次のグローバルストックテイク※が行われる2028年に向けた取り組みにあらためて期待が寄せられています。
※グローバル・ストックテイク(Global Stocktake):パリ協定に基づいて5年ごとに実施される評価プロセス。各国が温室効果ガス排出削減目標の達成状況を確認し、地球規模での進捗を総合的に把握するためのもの。
注目点2: 途上国への資金支援を具体化させていけるか?
気候変動の悪影響は、先進国よりも途上国で深刻だとされています。
2024年のCOP29では厳しい交渉の末に、途上国の災害を軽減する資金についても、2035年までに総額で年間1.3兆ドルをめざすことを呼びかける一方で、先進国の政府が主導しつつ、民間資金と公的資金を合わせたお金の流れを、2035年までに年間3000億ドルに増やしていくことを目標として決定しました。
COP30では、新しい資金源となる1.3兆ドルの具体化にも期待が高まっていました。
〔COP30では〕
途上国の適応に対する資金は、2035年までに3倍に増やす方針が決められました。当初は2030年からとされていましたが、5年の先延ばしとなりました。さらに先進国への資金拠出の呼びかけは努力目標に弱められました。
各国の適応状況を評価する「世界共通の物差し」にあたる指標などが盛り込まれました。この指標では、防災警報、異常気象に耐えるインフラの整備などに資金が投じられます。
80カ国以上が求めた化石燃料からの脱却に向けたエネルギーの転換に関する「ロードマップ」は合意文書に盛り込まれず、当初案にあった「化石燃料」という文字自体も削除されました。産油国の影響とされています。
ただし議長のリードで、COP外に化石燃料からの転換に向けたロードマップが設立され、COP31に報告されることになりました。いわば、セミフォーマルな形では設立されたと言えます。
注目点3: 非国家アクターの動き
COPでは、国連会議としての正式な合意とは別に、国やセクターを超えた企業や都市・自治体、市民団体などの非国家アクターとよばれる有志の参加と発表も増えています。気候変動対策への国際的な「揺り戻し」が心配される中、こうした非国家アクターの取り組みは交渉をより良い方向に導くための後押しとなっています。

〔COP30では〕
世界第2位の温室効果ガス排出国であるアメリカが2025年1月にパリ協定からの脱退を発表しました。それにも関わらず、COP30ではアメリカの非国家アクターが大きな存在感を発揮しました。
11月11日には、アメリカの非国家アクターが5,000以上も参加する連合体「America Is All In(アメリカはみんなパリ協定にいる)」が、COP30会場内でイベントを開催。都市、企業、大学、研究機関から集まったメンバーが各自の取り組みを共有しました。また、終盤に登場したカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、「気候変動対策を議論するために集まったベレンにおいて、カリフォルニア州がアメリカ連邦政府に代わり、その対話をリードし続ける」と述べ、会場を湧かせました。

COP30ではアマゾン先住民族の動きも注目を浴びました。開催国ブラジルは、先住民族のCOP30への参画を重要視し、ベレンには3,000人もの先住民が滞在し、うち900人が公式交渉に参加したとされています。11月15日にベレン市内で行なわれた大規模な気候マーチでは、色とりどりの民族衣装に身を包んだ多くの先住民族が、農地の拡大による森林破壊や化石燃料の開発からアマゾンを守るよう訴えていました。
パリ協定以降、非国家アクターの参加者は着実に増加し、今回は会場参加が5.6万人、オンライン登録を合わせると約6万人となりました。

注目点4 森林に関する取り決め
今回のCOP30は“地球の肺”とも呼ばれるアマゾン熱帯雨林に近接するベレンが開催地でした。議長国ブラジルは森林保全に関する議論を大きな論点として据えていました。
森林は大気中の炭素を吸収・貯蓄することで気候変動の進行を遅らせ、生物多様性の宝庫としても役立っています。一方、南半球を中心に深刻な森林破壊も起きており、生き物たちの生息地減少と温室効果ガス排出の大きな原因にもなっています。1.5度目標の達成に不可欠な要素として、森林破壊をゼロにすることの必要性が国際的に認識されており、グローバル・ストックテイクの成果としても、2030年までに森林破壊ゼロをめざすことが合意されています。

〔COP30では〕
化石燃料からの転換や森林破壊の停止・回復に関するロードマップをつくるという文言は入らないまま採択となりました。議長はこの採択が多くの国や市民団体にとって納得できるものではないことに理解を示し、COP外の率先した行動となるものの、議長国であるブラジル自身がこれらのロードマップに関する国際的な議論の場を設定し、COP31で報告するとしました。
COP30が開かれた現地からのコメント
田中 健さん
WWFジャパン 気候・エネルギーグループ(非国家アクター連携担当)

今回の交渉では、化石燃料からの転換や森林破壊の停止と回復を含むグローバル・ストックテイクの成果を実施に導くための、具体的なロードマップを作るという合意は残念ながら見られませんでした。しかし、交渉の外で行なわれた非国家アクター、すなわち締約国政府以外の主体を取り巻く活動は、パリ協定から10年の成果の蓄積を一つにする「アクション・アジェンダ」を軸に、新しいフェーズへと踏み出しました。COPにおける非国家アクターのこうした活動は、自らの取り組みを前進させるだけでなく、締約国による交渉を後押しするシグナルを送るという役割もあります。今後の非国家アクターの活動がさらに進化し、締約国に向けたシグナルが一層強さを増していくことを期待します。
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