企業とNGO/NPO

がんを経験した方々が、自分らしさを取り戻す“道しるべ”に

マギーズ東京センターを訪ねて

国民の2人に1人が罹患するとされるがん。毎年100万人以上ががんとの診断を受け、治療と向きあっています。がん治療は進歩し、いまでは生存率も高まり、不治の病ではなくなったとされますが、「治療と仕事の両立」「副作用や後遺症とのつきあい方」など患者と家族の不安は尽きません。東京・豊洲に2016年にオープンしたマギーズ東京は、がん経験者と家族(遺族を含む)・友人などをサポートする日本初の非営利団体。センター長の秋山正子さんにその活動を聞いてみました。[2025年3月20日公開]


自分らしくどう生きるか、がん経験者とその家族に寄り添う

2016年10月に東京・豊洲にオープンしたマギーズ東京。がんを経験した方と、その家族や友人などのだれもが気軽に訪れ、自らが抱える不安を話すなどして、自分自身の力を取り戻せる場所をめざしています。開設から8年ながら、これまでに46,000人以上がマギーズ東京を訪れています。

マギーズ東京は、英国で生まれたマギーズキャンサーケアリングセンター(マギーズセンター)に正式に認められてオープンした日本初のセンターです。がん経験者とその家族などが気軽に訪れることできる、第二のわが家のような居心地のよい場所で、がんに詳しい看護師・心理士がまるで医療知識のある友人のように一人ひとりの話に耳を傾け、さまざまな相談に応じながら、当人や家族が抱える課題に一緒に向き合い、ともに考え、自分の力を取り戻せるよう、心理的・社会的なサポートを行っています。

センターを訪れた方からは、「不安でいっぱいだったが、親身になって話を聞いてもらい、金銭面・仕事面・医療面などの問題も少しずつクリアになった」「栄養のプログラムに参加して、料理が好きになった」「他の利用者と話をする機会もあり、がんの部位や状況は違っても共感できる部分があり、視野が広がった」などの声が寄せられています。


大切な家族をがんで失った、自らの経験を糧に

マギーズ東京でセンター長を務めるのは、看護師・保健師・助産師の資格をもつ秋山正子さん。2011年には英国マギーズセンターをモデルにした「暮らしの保健室」を新宿区・戸山ハイツに立ち上げ、住み慣れたまちで暮らし続ける人々のために、健康・医療・介護などの相談の場を設けてきました。また、25年以上にわたる訪問看護ステーションの運営や在宅医療の普及啓発活動などが評価され、2019年には第47回フローレンス・ナイチンゲール記章を授与されています。

実は秋田出身の秋山さんは、16歳のときに父親をがんで亡くし、その体験が4年制の看護大学をめざすきっかけになりました。39歳のときに神奈川に暮らしていた2歳年上の姉が余命1カ月の肝臓がんと診断されたことから、関西で仕事を続けながら、当時は少なかった訪問診療を行う医師を探し、姉が自宅で療養できるよう看護に関わりました。

姉の在宅看護を経験する中で、がん患者の多くが「わが家に帰りたい」と話すのを聞いて、あらためて訪問看護の必要性に気づき、その後、自らが訪問看護をめざすとともに、夫の仕事の関係で42歳で東京に転居したのを契機に、訪問看護師として再スタートを図りました。

訪問看護師として多くのがん療養中の方に接する中で、皆さんが毎日の暮らしのちょっとした困りごとや病気の悩みと向き合い、気軽に相談できる場所がないことに気づき、医療者としてなんとかできないかと思い悩みました。

そんな折、たまたまスピーカーとして参加した国際がん看護セミナーで、英国のマギーズセンターの存在を知り、東京・新宿に「暮らしの保健室」を立ち上げることになります。そして、そこでの経験をもとにさらに仲間を増やし、共同代表理事の鈴木美穂さんらと、新たに立ち上げたのがマギーズ東京でした。

マギーズ東京が発行する情報誌「HUG」。「がんであってもなくても、自分らしく生きる」をコンセプトに、 マギーズ東京まで来られない人にもその精神を届けたいと創刊された。

マギーズ東京がめざすもの
~秋山正子センター長に聞く

ーーがんはかつてのようには不治の病ではないとされています。しかし、がんだと宣告された患者とその家族は、診断されたその瞬間からいまでも“出口の見えない深いトンネル”に迷い込んでいます。

秋山:がん医療そのものは着実に進歩し、10年以上の生存率は6割弱となっています。がんに罹患した人が若年の働きざかりの場合は、治療と仕事をどう両立させるか、家族の暮らしをどう支えるかなど、大きな壁に突き当たり、さまざまな決断を迫られます。一方、高齢者の場合は、がん以外にも身体の不具合が現れたり、認知機能の低下も加わるなど、これらとどう向き合うか難しい判断を迫られます。

ーーマギーズ東京にはこれまでに46,000人ものがん経験者や家族が利用しています。どのような方が何を期待してマギーズを利用しているのでしょうか。

秋山:マギーズは、がんの治療・検査・投薬・施術を行う医療機関ではありません。がん経験者やその家族は医療機関での治療を続けながら、もう一度自らの力で、ご自分の人生をとらえ直し、次の行動に活かしてもらうことを応援する場です。言葉を変えるとこれからの人生をともに考え、勇気づける“道しるべ”の役割を果たせればと考えています。

ーーマギーズの発祥は英国ですが、その精神は日本でどのように受け継がれようとしているのでしょうか。

秋山:マギーズは1996年に英国で生まれました。がんを体験した造園家のマギー・ジェンクスさんが「治療中でも患者としてではなく、一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内が欲しい」と願ったのがきっかけでした。マギーさんのこの願いをかなえるためたくさんの方々が協力し、いまでは英国内に28カ所、香港やスペインなどにもマギーズの取り組みは広がっています。“病院の外にあって、いつでも予約なしで立ち寄れる場所”であることが望まれる姿です。

マギーズ東京は、英国のマギーズの精神と志を受け継ぎ、企業や個人の皆さんのチャリティによって建設・運営されています。さまざまな方のご縁がつながり、借りることができた400㎡の敷地に、中庭を挟んで本館とアネックスの平家2棟が並ぶ開放的な空間が生まれました。ここでは平日の10時から16時まで、予約なしでがん経験者やその家族のために、専門知識と経験をもった看護師や心理士が、お話を聞いて一緒に考えたり、必要に応じた情報提供をするなどのサポートを無料で行っています。

ーー訪れてみると医療機関のイメージは全くありませんね。

秋山:ええ、訪れる皆さんを温かく優しく迎え入れられるよう、四季折々の花や木の実が彩る庭を設けました。本館には内部のキッチン空間とつながる木造のデッキがあり、気候のよいときには、広々としたデッキで陽の光を浴びたり、遠くの景色を楽しむことができます。建物のコーディネーターの一人である建築コーディネーターの佐藤由巳子さんは、この場所がクリエイティブで美しくあることは、施設の機能と同様にとても重要だと話しています。 

がんの影響を受けた人々は、明日への希望をもつことが困難で、自分自身を見失ってしまうことがあります。この場所を訪れる皆さんが、一人の人としての尊厳が保てるよう、訪れた人が歓迎されていると感じられ、五感を取り戻すような空間をと私たちは考えました。がんとともに生きることになった、これからの自分をどうしたいのかをゆっくり考え、自分で自分の歩むべき道を決断できる場所になれるよう、努めています。

私たちは、がん経験者やその家族(遺族含む)や友人が、この場所を通して自分自身としっかり向き合い、自立していく過程を数多く目の当たりにしてきました。私たちの仲間はそれを“マギーズマジック”と呼んでいます。

ーー医療機関との連携など、これからの課題でもう一言ありましたら……。

秋山:私たちには企業・個人や自治体からの支援もあり、これまでは比較的順調に活動を続けられています。マギーズ東京センターの周辺には、虎ノ門病院、東京慈恵会医科大学付属病院、国立がん研究センター、聖路加国際病院、昭和大学江東豊洲病院、がん研究会有明病院など大きな病院も多く、医師との連携もあります。最近では遠方からも地域包括支援センターなどのお声がけで私どもの施設を訪ねる方も増えています。がん経験者のケアは、医療機関だけで完結できるものではなく、さまざまな地域で医療を支える在宅医療、地域の病院、ホスピスなどとの連携をさらに強めていかなければなりません。

病に苦しむ人にこそ、光と緑に溢れる素敵な空間を。「マギーズ東京」

認定NPO法人マギーズ東京
〒135-0061 東京都江東区豊洲6-4-18TEL. 03-3520-9913 FAX. 03-3520-9914
https://maggiestokyo.org/

■交通
電車で:ゆりかもめ「市場前」駅から徒歩5分
東京駅丸の内南口からバスで:「都05-2東京ビッグサイト」行き約30分、バス停「新豊洲駅前」下車
新橋駅前から:「市01豊洲市場」行き 約22分「市場前駅前」下車徒歩3分
東陽町駅前から:「陽12-2豊洲市場」行き 約28分「市場前駅前」下車徒歩3分
羽田空港からリムジンバスで:バス停「豊洲駅」または「国際展示場」下車、ゆりかもめに乗り換え「市場前」駅下車


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